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九十七話 東方からの使者・四

 「……」

 「…………」

 

 一方的に伝えたいことを伝えたのちに、アカツキ諸国連合からの使者が去ってしまい、あとには無言のヴァルアスとティリアーズが残される。

 

 町中でのことであり、もちろん通行人はそれなりにいるものの、誰も声は掛けない――いや、掛けられなかった。

 

 この町の住人であればヴァルアスがつい最近結婚したことは知っている。

 

 そしてこれ見よがしに大声で宣言された先ほどの言葉は、この辺りにいるなら聞こえたことだろう。

 

 この状況で二人に声を掛けられる人物など、この町では商人の取りまとめ役くらいのものだが、幸いなのか不運にもなのか、この場には通りかからなかった。

 

 「……確認するけれど…………、心当たりは?」

 「ない! アカツキに……、いや、ティリアーズ以外にそんな相手は断じていない!」

 

 間を置いてためらいながら、しかしはっきりと確認の言葉を受けて、ヴァルアスは即座に全力で否定する。

 

 ヴァルアスからすれば、迷惑甚だしく、また寝耳に水としか表しようがない状況だった。

 

 「だが……」

 

 しかしヴァルアスは言葉を続ける。

 

 アカツキ諸国連合にいる“婚約者”になど心当たりが全くなかったが、こういうことを仕掛けてきそうな人物になら心当たりがあるからだった。

 

 「何かあるの?」

 

 途端に不安そうな表情となったティリアーズに向かって、ヴァルアスは重々しく頷く。

 

 名前を口にするのにも力がいるような相手だが、ヴァルアスにとっては若い頃に世話になった恩人でもあった。

 

 「アカツキのタヌキババ……いや、だいようか……、ではなくて、会頭のタキには借りがあってな」

 「さっきの使いの人も名前を出していたわね。あの子がどうしてこんなこと……」

 

 ティリアーズの反応を見て、代表会談でのタキは自分が知るのとは違う振る舞いをしていることをヴァルアスは察する、がそれは今どうでも良いことだ。

 

 「とにかく、あのタキがこうして使者まで出してきたからには無視はできん。ティリアーズには悪いが、一度アカツキに赴いて話をしてくる」

 

 こうして、新婚であり新しい商売の店舗もようやくできようかというこの時だったが、ヴァルアスは東方の諸国連合へと旅立つこととなったのだった。

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