九十話 英雄開業・八
意気揚々とファングウルフへと襲い掛かったブランは、うまく立ち位置を変えながら戦うことで背後を一切とられないまま順に仕留めていく。
「素晴らしい戦闘能力ですね」
「そうだな。動きも良いし、判断も優れている」
感嘆する魔剣リーフに手を掛けることもなく、ヴァルアスは悠然と戦況を見渡していた。
離れた場所から見ると、飛び跳ねるオオカミ型魔獣の動きに合わせて踊るように小さな踏み込みを連続するその動きが、無駄のないものだとよくわかる。
「でああぁ!」
そして最後の一匹となったファングウルフは、もはや敵うはずもなくあっさりと切り倒された。
「ふぅ、こんなもんですかね」
戦闘が終わって歩み寄ってきたヴァルアスに、ブランが息を全く切らすことなく告げる。
運動量の多い動作を続けられたことが、小さいとはいえ群れのファングウルフに完勝できた要因だったが、疲労も見せずにそれが可能な体力こそがこの若い冒険者の一番の強みかもしれなかった。
頑強で体力があることは冒険者にとって重要だ。つい最近に体調不良と体力低下によって死地に陥ることとなったヴァルアスには、なお更にそう思える。
「じゃあ一旦これを……」
魔獣の死骸へ目線を向けたブランが、その処理を始めようとしていた。
その強靭さ故に食用や日用品素材に向かない魔獣は、大部分が打ち捨てられることも多い。
ウォートータスのように特殊な甲羅でももっていればまた話は別だったが、少なくともこのファングウルフはこの場で剥ぎ取る手間をかける価値がある程でもなかった。
とはいえ、一般人の通り道である街道沿いに血肉を放置しては別の魔獣を呼び寄せるため、今回はどこか離れた場所まで持っていくか、穴でも掘って埋める必要がある。
だがブランが実際に作業に入るよりも、リーフが新たな魔獣の気配を察知する方が先だった。
「あちらに……、単独なのでおそらくはグルベアです」
「そうか」
「っ!? うぉあっ!!」
ヴァルアスの肩に姿を現して、街道からは離れる方向を指差す小さなリーフの端末体を見て、ブランがのけ反って驚く。
別に隠している訳でもないため、リーフの存在はその詳細はおぼろげながらノースの町でもそこそこに知られているが、ブランは聞き及んではいないようだった。




