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八十七話 英雄開業・五

 勢いのある自己紹介に圧倒されたペップルはしばし放心し、「行商人がこれではいけない」と気を取り直した時には、ヴァルアスはブラン、ムクッシュと世間話をしていた。

 

 といっても内容は最近ノースへやって来た料理人が屋台で出す食べ物がうまいだとか、天気の良い日が続くといったような、本当に雑談といった内容になっている。

 

 しかしいい加減に、ヴァルアスが始めようとしている“店”というものが気になって仕方ないペップルは、大きな声を出そうと息を吸った。

 

 「すぅ……、ヴァ――」

 「ああところでヴァルアスさん、ついこの間色々と頼んだばかりで申し訳ないのですが、き、近隣の魔獣討伐でご相談したくてですね」

 「――る、あ?」

 

 だがまたもやペップルの言葉は遮られ、代わりにヴァルアスへ届いたのはムクッシュからの頼み事だった。

 

 つい先日、色々と頼み過ぎたと殊勝な態度までみせたムクッシュだったが、それはそれとして彼らしさは全く失ってはいなかったようだ。

 

 とはいえ今度はペップルとしても思わず言葉を止めてしまったという部分もあった。

 

 ムクッシュからの言葉に近隣の魔獣ということが含まれていたからだ。

 

 というのも、そもそも行商人であるペップルは、いつまでもこのノースの町に留まり続けるつもりはない。

 

 そろそろ師匠もいるシャリア王国へと向かうため、ここから出発しようと考えていただけに、旅の安全に直結する話題には敏感にならざるを得なかった。

 

 「討伐? その魔獣の詳しい情報は?」

 「い、いえ……、グルベアやファングウルフの目撃証言がちょっとあってですね」

 

 ガウベアと比べるとはるかに脅威度が低いクマ型の魔獣であるグルベアとはいえ、ペップルのようなただの商人にとっては十分に恐ろしい存在だ。

 

 まして群れで襲い掛かる足の速いファングウルフもとなると、ちょっとあっただけの目撃情報でも確かに重大なことだった。

 

 内心で「何とかして欲しい」と祈るような気持ちで推移を見守るペップルの前で、ヴァルアスは、隣に立つブランの肩に手を置きながらあっさりと請け負う。

 

 「わかった。情報収集と、その結果次第での討伐依頼、確かに請け負った。ワシらのこの……“冒険屋”オレアンドル商店でな!」

 

 そしてその宣言によって、ペップルにとっては先ほどから知りたかった何の店なのかということも、ようやく聞くことができたのだった。

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