八十五話 英雄開業・三
ついうっかりと人情をみせたムクッシュが、ヴァルアスに頼みごとをされてから数日後。
それなりの規模であるノースの町を中央で東西に分割する大通り、そこから一本西寄りにある通りは装身具や衣服から家具、そして武器や防具などの工房と小さな店が並び、職人通りと呼ばれている。
その中でもあまり目立たない位置、しばらく空き地となっていた場所では、新しい建物が建ちつつあった。
「すごい……、もう形になってる……っ!」
それはヴァルアスに頼まれたムクッシュが土地購入の斡旋と建設の手配をした建物だ。
中央大通り沿いの一等地ではないとはいえ、地元の人間でもないヴァルアスが簡単にできることではなかった。
つまりムクッシュの商人取りまとめ役という肩書きが、名称だけではないという事実に様子を見に来たペップルは改めて驚いている。
とはいえ行商人として常にそうしたことには気を張っているペップルは、ムクッシュのことも舐めている訳ではなかった。
その上で、やはり目に見える形で思い知らされた影響力というのは、印象強いものだ。
「よ、よかった、順調に進んでいますね」
「あ、ムクッシュさん。こんにちは」
「ああどうも、ペップルさん」
そこにちょうどムクッシュも様子を見に来たようだった。
ペップルは軽い挨拶に続けてムクッシュの手配の良さを褒めると、ふと気になったという風情を殊更に見せながら質問を続ける。
「あぁ~、そういえば、ですけど。これってヴァルアスさんのお店……なんですよね?」
「そう聞いています。何を売るつもりなのかは教えてもらえていないのですけれど」
「そうなんですか……」
ムクッシュにこれを頼んでからのヴァルアスは何やらノース近辺で動き回っており、機会の合わなかったペップルは詳しい話を聞きそびれていたのだった。
それをムクッシュに聞くことに問題はなかったが、一応はノースにくる以前からのヴァルアスの知り合いである自分が何も知らないということをさらすことに、若いペップルは勝手に後ろめたさを感じていた。
だがムクッシュからの返事は期待したものではなく、そこで会話も途切れる。
「おお、ムクッシュ! 仕事が速いな」
ちょうどその時に背後からヴァルアスの声が掛かり、ムクッシュとペップルは揃って振り返った。
頭の中では気になっていたことを聞こうと質問を考え始めたペップルだったが、後ろに立っていたヴァルアスを見て、口からは全く考えとは違う質問をこぼすこととなる。
「ヴァルアスさん? その……後ろの方は誰でしょうか?」
嬉しそうに建設現場を見渡すヴァルアスから二、三歩離れた後ろには、ややくすんだ金色の髪を雑に刈り揃え、碧色の瞳を好奇心旺盛にきょろきょろと動かす体格のいい青年が立っていたのだった。




