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八十四話 英雄開業・二

 「え? あ? か、完了……ですか? では東の草原での討伐があと……それも、もう?」

 「そうだな、一通り終わった」

 

 色々とまとめて依頼されていた内容の報告をヴァルアスから受けたムクッシュが目を白黒させる。

 

 ムクッシュはこれらの依頼の殆どについて取り次いでいただけなので、完了報告ならすでにヴァルアスから依頼主へと直接されていた。

 

 そのためこれは既に完了しているという事後報告だ。

 

 「……すごいですね」

 

 結局ムクッシュは依頼の数と、それをこなすのにかかった時間を深く考えるのを諦めて、一番単純な感想をぽつりとこぼす。

 

 その態度を見て、驚かせた方のヴァルアスが苦笑を浮かべていた。

 

 本当にペップルが言っていた通りに、ムクッシュとしてはとりあえず頼むならタダだという考えだったのだろう。

 

 それを頼んだ端から受けて、しかも短い期間に終えてしまうとは思ってもいなかったとその表情が語っていた。

 

 意外とノースの町の商人たちから頼りにされている代表であるこのムクッシュ・ヴェンは、言葉を選ばずにいえば厚顔無恥さが取り柄だ。

 

 相手が嫌な顔をしても構わずに、「言うだけ言ってしまえ」とばかりに言い分をねじこんでくる。その一種の交渉能力が頼りにされての代表なのだった。

 

 そうしたムクッシュにとっては、特段と嫌がらずにほいほいと受けられるという状況で、調子が狂ったのかもしれない。

 

 そんな風に調子が狂ったことが原因か、あるいは他に意図があってのことか、常であれば報告を聞いたら「それではまた」としれっと去っていくムクッシュがふと口を開いた。

 

 「ヴァルアスさんにはノースの商人だけではなく町民全員が感謝しています。な、何かありましたら言ってくださいね、力になりますので」

 

 それは本当にムクッシュらしくない言葉だったが、紛れもない事実で本心だ。

 

 だが珍しくも場の空気に流されてそんなことを口にしたムクッシュは、ヴァルアスが英雄であると同時にベテランの冒険者であるということを忘れていた。

 

 冒険者というものは意外と抜け目がない。いや、当人たちからすれば意外でも何でもなく必要であるからそう振る舞っているに過ぎないが。

 

 「ほう、それはありがたい。では早速だが――」

 

 大変なことではあるが不可能でもない内容を滔々と話しだしたヴァルアスを前にして、普段はあまり表情を大きくは変えないムクッシュが、珍しく露骨に「しまった」と目元を歪めたのだった。

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