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七十七話 絆・十二

 「グ……ゲァッ」

 

 空を飛ぶ紅い巨体からの衝撃に巨人族が揺らぐ。

 

 気付いてはいたようだが、まさかぶつかってくるとは思わず不意打ちのようになったのか、あるいはこの巨人族も本調子ではなかったのか。

 

 片言ながらも人族や竜族と同じ言語を話せるはずの巨人族が、唸り叫ぶ以外には音声を発していないことにヴァルアスも気付いてはいたが、それは今掘り下げて考えるような余裕はなかった。

 

 「ヴァルっ!」

 「ティリアーズ!?」

 

 そしてまだよろよろとしている巨人族には構わずに、人化状態へと変化したティリアーズが辛うじて膝立ちの体勢を保っていたヴァルアスに駆け寄る。

 

 ティリアーズが戦闘態勢を解いたことに焦ったヴァルアスだったが、体当たりの衝撃で少し遠くなっている巨人族は攻撃してくる様子もなかった。

 

 それほど今の体当たりの威力は大きく、そして竜族への警戒もまた大きいのだろう。

 

 「ぐ、ぁが……っ」

 「ひどい状態……なんてこと」

 

 警戒と戦闘の継続を促そうとしたヴァルアスだったが、言葉は出なかった。

 

 喉に溢れた自分の血で溺れないよう咳き込む力すらもはや殆ど残っていないヴァルアスの惨状に、ティリアーズも動揺を見せる。

 

 「ティリアーズさん、私が時間を稼ぎます。マスターを連れて一度撤退を」

 

 戸惑うティリアーズに、端末体の姿を現して“自分”を拾い上げながらリーフが提案した。

 

 一般的な人族と同程度の体躯で、長い緑髪を背面に払い流しながらロングソードを抱えるその姿は、エンケの塔でヴァルアスと初めて出会った時の姿と同じだ。

 

 竜族の中でも強者であるティリアーズの力であれば、巨人族一体を相手に渡り合うことはできるし、まして目覚めたばかりのこの個体が相手であれば勝利も確実といえた。

 

 しかしその戦闘が一瞬で終わるはずもないし、瀕死のヴァルアスがその時間を生きながらえることも難しいのは瞭然。

 

 確実にヴァルアスの命を救うということを第一の目的とするなら、リーフが少しでも時間を稼ぎ、その間にティリアーズが最速でノースまで撤退することが最良だとリーフには考えられたのだった。

 

 だが、ティリアーズは全く違うことを提案してくる。

 

 「時間を稼げるのね? なら少しでいい、私に時間をちょうだい」

 

 ついに膝立ちすら保てずに倒れそうになったヴァルアスをティリアーズは膝をついて抱きとめる。その目には確たるものが光として宿っていた。

 

 「わかりました」

 

 リーフはその確証が何か? 何をしようとしているのか? それは問わない。

 

 ついに巨人族が戦闘を再開しようという素振りをみせていたし、ティリアーズは己の主が誰よりも信頼している相手だからだ。

 

 「ありがとう」

 

 そしてティリアーズはリーフの背中に向けて礼を言うと、ぐったりとしているヴァルアスの両肩を支える。

 

 戦闘状態時の鱗と同色の瞳が揺らぐことなくまっすぐと、目がうつろになりつつあるヴァルアスへと向けられていた。

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