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七十六話 絆・十一

 「うぁ、が……ぁ…………」

 「マスター!? 意識はありますかっ? 何とかして撤退を!」

 

 もはや撤退した場合のノースの町への被害など考える余裕はないと、リーフは辛うじて息のあるヴァルアスへと呼び掛ける。

 

 しかしただうめき声が返るのみで、まだ意識があるかどうかもわからなかった。

 

 「どうすれば……」

 

 ヴァルアスの腰に吊られるようになってから時間が経過した今、魔剣リーフには潤沢な魔力が満ちており、かつて塔にいたときのような通常の人族大で端末体を出現させることも可能だ。

 

 それを使えば重傷のヴァルアスを引きずって帰ることも可能だろう……阻む者がいなければ。

 

 「グァガアアアアアア!」

 

 今は勝利を確信したのか、あるいは単に正気ではないのか、巨人族は天に向かって咆哮している。

 

 そのために本当の止めとなるであろう追撃を受けずに済んでいるものの、リーフが端末体の姿を現し、撤退を始めようものならすぐにでも攻撃を誘発しかねなかった。

 

 「ぐぅっ」

 「っ! マスター!」

 

 その時、相変わらず苦しそうに呻きながらも、ヴァルアスが身を起こし膝立ちとなる。

 

 「ィーフ……、端末体は……だせ、るな? ……ノースまで、走って……、このじょう、きょう……を、伝えろ」

 

 そこまで動けただけでも奇跡といえるほど満身創痍のヴァルアスからは、リーフが提案し、今も方法を考えていることとは違った指示が告げられた。

 

 途切れ途切れのその言葉は、もはや死を覚悟したヴァルアスが、せめて危険を人々に伝えろという内容。

 

 地に落ちている魔剣リーフを拾おうとしないことが、より一層その意図を示していた。

 

 しかし武器を拾おうとしないとはいえ、ヴァルアスの戦意までもが無くなっているという訳ではない。

 

 「ぐ……くそっ。いてぇ……な」

 

 ヴァルアスは武器ではなく、旅や探索での道具として腰の後ろに差しているナイフをもたもたと引き抜いて突き出した。

 

 それだけでも激痛があるようで、その表情は苦しそうに歪む。

 

 「マスター、それは嫌です。その指示は聞きたくありません」

 「……っ? ふは、は……魔剣にわがまま、なんて……あるのか」

 

 きっぱりと、あまりにも決然と所持者の命令を拒否するリーフの言葉に、ヴァルアスは一瞬だけ状況も忘れて笑った。

 

 「なら、一蓮……托生、と……いこうか……」

 

 そもそもリーフが単独で逃げようとしたところで、おそらくはうまくはいかないだろう。

 

 どうせ可能性が低いなら、ともに抗って万に一つの逆転勝利を目指すのも悪くない。そう思ったヴァルアスは、先ほどリーフの声が聞こえた方を手探りした。

 

 「マスター……っ」

 

 一応は開いているヴァルアスの両目が、もはやほぼ見えてもいないことを察したリーフは悲痛な声で剣身を震わせる。

 

 付き合いは短く、ヴァルアスの戦う姿を見たことは殆どないリーフだったが、不死の理術使いを殺した英雄のこれほど弱った姿が、ありえないといえるほどに大変な事態だということはわかった。

 

 「む?」

 「あれは……?」

 

 その時、しきりに空へと向かって吠えていた巨人族の見る先で、何かがきらりと反射したことにヴァルアスとリーフは気付く。

 

 空のただ中で太陽光を受けてきらめく紅。

 

 炎のように激しく、ルビーのように華やかなそれは、彼女の一族においても珍しいとされる深紅の鱗が放つ凄烈な輝きだった。

 

 「ティリアーズっ!」

 「っ!?」

 

 ヴァルアスの口から出た名に、肺もないはずのリーフが息を呑んで驚いた気配がする。

 

 頑強な鱗に守られた巨大で強靭な胴体。攻撃の意思を体現するような鋭さを持つ牙と爪。そして空を制圧するかのように悠然と広げられる翼。

 

 それは戦闘状態となり、溢れるほどの魔力と暴力性を解放した竜族の姿。

 

 「ぅぅぅぅうううぶるぁぁあ!」

 「グガァッ」

 

 そして遠方から尾を引いてきた竜の咆哮はすぐに爆発音のような大音響となり、高速飛行の勢いで大質量の体当たりが巨人族へと炸裂した。

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