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二十九話 理術の塔・九

 不意の足止めをされながらも、ヴァルアスはロコの姿を探して二階へと上がってきていた。

 

 「ふぅ……ふぅ……」

 

 小さく浅く、だがはっきりと息を乱すヴァルアスは、己の肉体の衰えに苦笑を堪えきれない。

 

 理術使いがロコを引っ張っていった目的がはっきりとしない以上は、後先を考えずに全力を出すしかなかった。とはいえ、それで無視できない程度には疲労が蓄積していたのだった。

 

 「若い頃なら魔獣やギガンタスどもを斬り倒すたびに、むしろ活力が湧き上がってきたもんだが……ん?」

 

 いかにも年寄りくさいことを口にしながら二階を見渡したヴァルアスは、あるものを目にして疑問に首を傾げる。

 

 二階は部屋の中央を除いて何もない部屋。ただし今上がってきた階段の反対側が不自然に壁で区切られており、どうみてもその中が三階への階段と思われた。

 

 そしてその中央にあるこれも植物で構成された装置のようなもの、それが疑問の原因だった。

 

 「これは……」

 

 ヴァルアスはやや慎重に近づき、部屋の中央にある台座の上に置かれたそれを手に取る。

 

 不思議な質感の枝がうねってできたような棒。

 

 そうとしか表現のしようのない異様な物体だった。そしてそこから植物の蔓が伸び、奥の階段部屋と思われる壁へと繋がっている。

 

 「これを何とかすれば、上への道を開けることができる……と?」

 

 この塔そのものへと招き入れるようにされたことといい、理術使いは本気で足止めしようとしている訳ではない様子だ。

 

 いうなれば対峙に値する人間かどうかを選別する試練。そんな予測がヴァルアスの頭をよぎる。

 

 ギシリ……

 

 不思議な棒を握るヴァルアスの手に少し力が加わる。

 

 ふざけた試練を受けさせられることに、そしてそんなものに子供を巻き込んでいることにも、苛立ちを感じたからだった。

 

 とはいえ、無理やり塔を破壊はしないという方針でいく以上は、真正面からこれに挑むしかない。

 

 この不思議な棒はそれぞれが輪っか状の部分から棒が伸びる形状をしており、これらをうまく噛み合わせれば“合格”なのだろうというのは予想がつく。

 

 だが複雑にうねるこの形状は、普通に考えてどう扱えば良いのかわかるようなものではないし、まして焦っている最中であればなお更答えは遠のいていく。

 

 何せこうした仕掛けを解くのには柔軟な思考と冴えたひらめきが求められる。

 

 「ふむ……」

 

 生来体を動かすことが何より得意で、難しいことを考えるのが苦手なはずのヴァルアスはためらいなく両手を動かし始める。

 

 何もわからないために自棄を起こした――否。

 

 実のところこの老英雄は隠していただけでとても賢い――否。

 

 では何故……というより何をしようとしているのか。

 

 答えは年の功。非常に高額で取引されるウォートータスの要塞壁の如き甲羅よりも、時には価値あるものとされる経験値によるものだった。

 

 「遺跡でこんな仕掛けを見たことがあるな。あの時はワシが解いた訳ではなかったが……よく見ておいて良かったという訳か」

 

 当時の同行者に頭脳労働を丸投げしていたものの、せめて見守るくらいしろとどやされた遠い日の思い出に、一瞬だけヴァルアスの口元が綻ぶ。

 

 かちゃり、と小気味いい音を立ててうねる棒は一つに噛み合い、壁の一部が横へ滑るように動いて予想通り上へ向かう階段が姿を現す。

 

 「待っておれよ……」

 

 それは理術使いへの敵愾心か、ロコへの心配か。

 

 改めて表情を厳しくしたヴァルアスは、ちょうど呼吸が整った身体を機敏に動かして、さらに上階へと急ぐのだった。

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