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百六話 アカツキの古ダヌキ・九

 再びキキョウ庁舎の応接室へと戻ってきたヴァルアスは、扉を開けると同時にタキの薄笑いに対面していた。

 

 「行ったり来たりとさせられた一日の最後に見る顔がまたこれとは……」

 「なんや?」

 

 他人の思惑に流される状況に、いい加減うんざりとしてきたヴァルアスだったが、そんなことを口に出したとて、それで怯むような相手でもない。

 

 「改めて言わせてもらうが、結婚のことは断る」

 「……それで?」

 

 少しだけ瞼を下ろしたタキが、声音は変えずに問いかけた。

 

 その表情には険も圧もなく、生徒が問題に答えるのを聞く教師のようにすら感じられる。

 

 「はぁ……。サラサの恋人であるゼツが魔導具を開発するための素材を、ワシがこれから取りに行く」

 

 これ見よがしな溜め息に続いたヴァルアスの言葉を聞き終えたタキは、ぱんと乾いた音を立てて扇子を開き、機嫌が良さそうに扇ぎ始めた。

 

 「ゼツというと、画期的な水の魔導具を開発中やっちゅう、あのゼツ・ショウギか? なるほど、それなら確かに孫娘の婚約者として申し分ないわぁ」

 

 からからと笑うタキに対して、ヴァルアスは無言で頷く。

 

 何かを言ったとしても、とぼけられるかあるいは痛烈に言い返されると予想できているヴァルアスとしては、もう早く出発して魔獣相手に魔剣を振るいたいという気分だった。

 

 「それで……、いや、何でもない。後はまたワシの仕事が終わってから報告に来る」

 

 ウォーターリザードに関する情報を聞こうとしたヴァルアスだったが、それは言いかけただけで止める。

 

 今回の件ではできる限りでこのタキからの支援は受けずにやるべきであろうし、必要な情報があるなら既に伝えているだろう、と。

 

 パシン

 

 言うべきは言ったと立ち上がって身をひるがえしたヴァルアスだったが、タキが扇子を畳む音に足を止め、首を捻って視線だけで向き直った。

 

 殊更にわざとらしい音で畳まれた扇子を懐へとしまうタキは、いつの間にか先ほどまでの機嫌の良い表情が消え、感情の読めない真顔になっている。

 

 「しばらくこの国に滞在するんやろ?」

 「……そうなるな」

 

 唐突な質問に、ヴァルアスは「お前がそう仕向けたんだろう」とは口にせずに肯定した。

 

 タキのその雰囲気は、益体もない冗談を言うというものではなく、かといってここまでの話の流れとは繋げずに伝えておきたいことがある様子。

 

 「……仙丹会には気ぃ付けや」

 

 言葉を選んだ結果なのか、商会の名前らしきそれの何に、そして何故気を付けるのか、詳しいことが不明だった。

 

 だが飄々とした老商人が不意に声を低くして告げてきた内容に、ヴァルアスも重々しく頷いてから、眉間にしわを寄せる。

 

 凶悪であるとはいえ魔獣の討伐というヴァルアスにとってはやり易いように見え始めた一件は、やはり一筋縄ではいかない事情を含んでいるようだった。

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