前世
私の名前は高橋浩二。職業は塾の講師をしていた。
農家の末っ子として生まれ東京の大学を卒業後に都内の塾へ講師として採用された。
元々子供たちに物事を教えるのは得意だったがとある事がきっかけで30代の時TVに出ることがあり一時期有名人扱いされた時もあった。
50代の頃には世の中からは忘れられていたが平穏な暮らしに満足していた。定年後は子供のころから好きだった土いじりやDIYをしながらスローライフを送り85歳の時に妻と子供と孫たちに見送られ
穏やかに人生の幕を下ろした。
これが俺の前世だ。まだ、ゾンビが現れる前の時代、世界が夢と希望に満ちていた時代の記憶である。
エリーゼ「・・・・・!・・・・ウキ!!!ユウキ!」
エリーゼの声でユウキはハッとした。
ユウキ「・・・ユウキ???・・・・あぁ、俺の名前か。」
エリーゼはその言葉により心配そうな表情で彼を見つめた。
ユウキの頭の中では未だ前世の記憶と今の記憶が混在し駆けめぐっている。
ユウキ「ごめん、エリーゼ、今日は俺もう帰るよ。」
ユウキは急いで今広げたばかりの道具を片付ける。道具といっても小さな鎌と小さなスコップだけである。すぐにユウキは走り出す。
エリーゼ「ユウキ!またね!明日も私、ここにいるから!!!」
ユウキは振り返ると微笑で手を振り返した。
ユウキは自宅に戻ると1つしかない椅子にこしかける、持っていた道具は袋ごと床に置いた。
ユウキは椅子に座りながらぐるりと部屋を見渡す。
(こんな建て方じゃ大きな台風がきたら1っ発で吹き飛んでしまうな。せめて、あそこを補修すれば・・・・いや、あそこを補修するならこっちもどうかしないと・・・というか1から作り直した方が早いんじゃないか?
ツーバイフォー工法で・・・・あでも基礎も・・・・)
そんなことを考えているうちに眠りについてしまった。
ユウキが目を覚ましたのは次の日になってからだった。すでに陽は昇っておりユウキは自分の腹の音で目を覚ました。
ユウキはとりあえず取り組みしていた水を飲み、わずかにとっておいた乾燥豆をほおばった。
前世の記憶がよみがえったユウキにはとてもじゃないが美味しいとは思えない味だったが食べる物と言ったらこれしかないので仕方がなく頬張りながら外に出た。
ユウキ(なるほど・・・・・)
前世の記憶が蘇ったユウキの目には今までと違った景色が見えていた。自由エリアのほとんどは岩や砂地だが全く緑がないわけではない。場所によっては過去の遺物が廃棄されてたりする。今、ユウキの目の前にもツタまみれの車の残骸が置いてあった。
(今までこれが何かもわからなかったけど、今はわかるぞ。)
ユウキは車の中を改めて覗いてみた。車のキーはささったままだった。
(この中には・・・・)ユウキは助手席のダッシュボードを開けてみる。中にはボロボロになり形の崩れた書類しか入っていなかった。
(車検証か説明書かな?)ユウキは運転席に移動しトランクのレバーを引く。ボンと後ろからロックが外れた音がした。
ユウキは後ろにまわりトランクを開けようとしたが、なかなか開かない。やはり長い年月でどこか錆びついてしまってるのだろう。
やっとのことでトランクを開け中を覗くと思ったより中は綺麗だった。多少の埃はたまっているものの外見の状態と比べれば綺麗に残っている方であろう。
トランクの中には工具箱が入っており中を開けると年季は入ってはいるが結構な種類の工具が揃っていた。
前世の記憶がなければこんなお宝発見できなかっただろうし、ましてやこれが何なのか、どう使うのかもわからなかったろうな・・・・とユウキは笑った。
一旦ユウキは家に戻り工具箱の中身を一個一個きれいに拭き始めた。
(よし、どれもまだまだ使えるぞ。それに、一緒にあった袋の中にクギやネジが大量に入っていた。もしかすると、この車の持ち主は大工だったのかな・・・・?この人は今
生きているのだろうか・・・・・)
ふいにユウキの頭の中に子供や孫の顔が浮かぶ・・・・・
儂の子供・・・・孫は大丈夫だったろうか・・・・・・どこかで、幸せに暮らしているのだろうか・・・・・
いつのまにかユウキの目からは涙がこぼれていた。