大海原
一通り明後日の準備が終わったころにユウキは以前から仕込んであった塩の回収に向かった。
あまり量はとれないが少しづつ瓶に塩の結晶が溜まっていく。
ユウキは少し舐めてみる。やはり想像通りまずい。この状態ではまだ塩の中に、にがりがあり最終的には火にかけなければ美味い塩にはならない。
ユウキはそれでも取れるだけとれる塩の結晶を瓶に詰めていく。
ユウキは回収し終えると一人浜辺の方へと歩いていく。
街灯の一つもないこの世界の夜はとても静かで深い海の底にいるようだ。
空を見上げると大きな月と今にも落ちてきそうなほどの無数の星たちの光がユウキの足元を照らしていた。
ユウキは子供の時にお袋に背負ってもらい見ていた田舎の星空を思い出す。いつの日からか忘れてしまい当たり前だと思っていた都会の星空との違いにしばらく立ち止まり眺めていた。
神様・・・・ガチャ・・・・前世の記憶・・・・ゾンビ・・・・。
この数日、ユウキの頭には次々に色々な事が起こりフル活動していた。
例えるなら頭の中の点と点の記憶が急激な濁流の中で結びついていくような感覚だった。
翌日も予定通り順調に塩作りを終えることが出来た。
ただ、この日ユウキは明日の事に頭がいっぱいになりガチャを引くことを忘れてしまった。
ユウキはその事を次の日朝になって気付きとてもとても悔やんだ。
【休みの日】
今日はこの一週間で1番といっていいほど晴れていた。ユウキが目を覚ました時にはすでにモハメッドやシャチは準備を始めておりユウキは慌てて皆を起こしてまわった。
一同は簡単な朝食を済ませるとすぐに出発の準備をする。今日はサチも一緒に来るらしい。シャチはサチに帽子をかぶせ紐を結んであげていた。
モハメッド「よし!それじゃあ、出発しよう!!」
皆「おー!!!」
一行ははモハメッドとシャチの後を付いていく。サチはエリーゼと手をつなぎ嬉しそうにしていた。
マンゾウとコウシロウ、アインも興奮しながら誰が一番大物を獲れるかで盛り上がっていた。
・・・・2時間歩いているがまだ到着していない。時折休憩をはさんでいるのでまだ体力は残ってはいるが・・・・・
マンゾウ「おいっ!!いつまで歩くんだよ!!!」
モハメッド「あと、1時間位で着くよ。もう少しだから頑張ろう!!!」
コウシロウ「・・・あっ、あと1時間も・・・・・・・」
シャチ「ほらな。やっぱり面倒なことになっただろ。」
モハメッドはシャチの言葉を完全に無視するとコウシロウの肩をポンポンと叩いて励ました。
モハメッド「大丈夫!!!皆、もう少し頑張ろう!!!」
モハメッドは自分の荷物をシャチに投げ無言で持てと命令し、トコトコとサチのところに歩いていく。
モハメッド「エリーゼちゃん、ありがとう。ここからサチは僕が背負っていくよ。」
サチは今まで頑張って歩いていたがすでに体力を使い切ったようで疲れ果てていた。
モハメッドはなれた手つきでサチを背負い紐で結んでいた。
一行はそこから一時間程かけ目的の場所へと到着した。
着いた場所は少し肌寒くどこか暗くじめっとした場所であった。
実際ここは陽の光があまり差し込んできていない。
理由は目の前にそびえたつ2つの壁のせいだ。
1つはエリアを隔てる壁。向こう側は俺たちの住んでいるエリアだ。
そしてもう1つは外との世界を隔てる壁。この2つの壁が隣接している場所に俺たちは来ている。
モハメッド「それじゃあ、これからこの木を登るよ。おっと、サチはいつものようにここで待っててね。」
モハメッドはサチを下ろし紐をほどく。
その間にシャチは手慣れた様子で持ってきた荷物から紐と布をくくり簡易的なテントを作り上げる。
モハメッド「それじゃあ、サチは少し休んだらいつものように薪を集めてね。絶対に無理はしないこと!!!あと、遠くに行くことも駄目だからね!!!」
サチ「うん。」
シャチ「何かあったら大きな声で俺を呼ぶんだぞ!」
エリーゼ「サチちゃんはここで1人なの?」
モハメッド「あぁ、まだサチはこの木を登ることが出来ないんでね。なあに、この場所には誰も近づかないから危険はないと思うんだが・・・・。」
エリーゼ「・・・・・・・それじゃあ、私も残るわ。」
マンゾウ「・・・いいのか、エリーゼ。お前、外の世界見たがってたろ。」
エリーゼは日頃からよく外の世界に行ってみたいと言っていた。
外の世界には沢山の食べ物があって、綺麗な花が沢山咲いている。
そんな世界を想像して夢みていた。
エリーゼ「ううん。いいの、ここでサチちゃんと皆を待っているわ。その代わり、あなたたち!!!!沢山、大きな魚を捕ってきてよね!」
コウシロウ「うん!!!!!」
コウシロウが人一倍大きな声で返事をしたので皆一瞬ビックリしてしまったがすぐに笑いに包まれるのであった。
シャチ「わりー、助かる。」
シャチはエリーゼに薄っすらと聞こえる声で呟いた。
それを聞きエリーゼは一瞬びっくりしたがすぐにニッコリと笑った。
モハメッド「それじゃあ、他の皆は僕に付いてきて。」
モハメッドは内壁の近くにそびえ立つ大木に手をかけ器用に登っていく。モハメッドがユウキに手招きする。
大木にはよく見ると手や足を掛けやすいようへこみが作られていた。ユウキはモハメッドの後を追い大木を上へと昇っていく。その後をマンゾウ達も付いていった。コウシロウとアインはビクビクしながらもゆっくりと昇ってきている。
殿ではシャチがイライラしながら2人に発破をかけていた。
大木の太い枝に到着するとモハメッドはそこから内壁へと移る。
丁度今、自分たちがいる所と内壁の頂上が同じ高さなので簡単に飛び乗れた。
壁は幅が2mほど厚みがあったのでしっかりと移れたがとびうっつった瞬間に手元の壁がボロっと崩れヒヤッとした。
ユウキ(案外この壁って奴も老朽化してるっぽいな・・・・・)
ユウキは慎重に足場を確保する。
一行は内壁に渡りそのまま外壁を目指す。
外壁まではそれほど距離はないが人目を避けるためかモハメッドは四つん這いになりゆっくりと進んだ。
15分程かけて外壁まで到着した一行は立ち止まる。ここで先頭のモハメッドが外壁の一部のネジを外し始めた。3分ほどで外壁の鉄板を外し終えると手慣れた様子で中に入っていく。
壁の中は古い配線やパイプがぎっちりと詰まっている。
恐らくこの壁はただの壁ではなく当時の科学力によって作られた最終防壁だったのだろう。
時が経った今では機能することが出来ない遺産。
モハメッド「皆、まわりにあるものに触れたらだめだよ。それはとても危ない物だから。」
マンゾウ「おっ、おう。」
ちょうどマンゾウが銀のパイプに触る直前だった。
10メートル程でモハメッドが止まり先程と同じように鉄版を内から外す。
差し込んでくる太陽の光はとても眩しかった。
見渡すかぎりの青空。
どこまでも深く蒼い海。
鼻の奥まで香る濃い潮のにおい。
遠く聞こえる海鳥の鳴き声。
ユウキの目に広大に広がる海原が飛び込んでくるのであった。




