海
依頼人の男の後をついていくこと2時間。先程から松林のような森を歩き続けながらユウキは顔にあたる風に潮の香りを感じていた。
ユウキ(懐かしい。子供の頃行った家族での海水浴。海の家で食べた焼そばやトウモロコシの記憶が鮮明に甦る。)
ユウキは前世の記憶に浸りながらもどこか、心はウキウキしていた。
依頼人の男「さぁ、あの小屋に入るぞ」
ユウキ達が松林を抜けると目の前には浜辺と東エリアと同じ高さの外壁がそびえ立っていた。
ユウキ(そうか、こっちのエリアの壁は海に面しているのか・・・壁には穴が空いているのか???海水は若干だが満ち引きしているようだが。)
ユウキはこの世界に生まれてからは初めて海を見た。すぐに、浜辺に行きたかったがグッと我慢し男についていく。
どうやら、他の皆も海に興味津々らしい。皆、嬉しそうに歩きながらも浜辺をずっと見ている。
依頼人の男「おい!ガキども!早くこい!」
とうやら、俺達は海に気をとられ歩くスピードが遅くなっていたようだ。
慌てて、男の元へ急ぐのであった。
小屋はお世辞にもしっかりした作りではない。外壁はここから見てもすきま風が入りそうな穴がわかる。ただ、大きさは結構ある、コンビニ二軒分くらいだろうか。
小屋の前には若い男が立っていた。手には長いこん棒のようなものを持っている。
依頼人の男「おうっ!朝の仕事には間に合ったか?」
若い男「おはようございます、旦那。朝の仕事はこれからですぜぃ。」
若い男は依頼人の男を見ると、小屋の扉を開け中へと促す。
依頼人の男は小屋の中へと入って行く。
小屋の中には俺達と同じような子供が3人程いた。ここで、寝泊まりをしているのであろう。今まさに働く準備をしているようだった。
依頼人の男「お前ら!今日から一週間ここで一緒に働くガキどもだ。仕事のやり方やここでの生き方を教えてやれ!わかったなっ!?」
子供達「はいっ!旦那様!!!」
3人は軍隊のようにビシッと立礼していた。
依頼人の男「んじゃあ、あとはあいつらに話を聞け!しっかり働けよ!サボりやがったら報酬は払わんからな!」
依頼人の男は小屋から去っていった。
静まり返る小屋のなか。始めに口を開いたのは小屋にいた3人の子供の中で一番体格の良い男だった。
男の子「ようっ。いらっしゃい、歓迎するよ。俺の名前はモハメッド。それで、こいつがサチ」
小さな女の子がモハメッドの後ろに隠れ恐る恐る俺達を覗いてた。モハメッドは俺達の2~3個くらい年上だろう。後ろのサチは5歳くらか・・・。
モハメッド「それで、あそこにいるのがシャチ」
モハメッドが指差す方には黙々と一人で何かの準備をしている俺達と同じと年くらいの男の子がいた。
マンゾウ「お邪魔するぜ・・・。俺はマンゾウってもんだ。こいつは弟のコウシロウ。あっ、あいつは、ユウキ。隣のメガネはアイン、それで、あの子はエリーゼだ。」
マンゾウは緊張しながら俺達の事を一通り紹介してくれた。
モハメッド「宜しく!皆さん。君達は見ない顔だけどどこから来たんだい?」
マンゾウは少し安心した様子で話始めた。
マンゾウ「俺達は南エリアから来たんだ。あっちにはおれたちのような子供が働ける仕事が少なくてよ・・・。」
モハメッド「なるほど、そうかい。南エリアってのは・・・」
シャチ「おいっ!!!!モハメッド。そろそろ、行かねーと今日のノルマが達成できねーぞ。おしゃべりは後にしてさっさと行こうぜ!」
シャチという奴は少しイラついているようだった。
モハメッド「そうだ!そうだったね。それじゃあ、詳しい仕事のやり方はあっちで教えるからまずは荷物をおいて準備をしてくれ。この、小屋にはサチだけが残る。」
アイン「荷物って、全部・・・置いていくの?そのー、無くなったり、盗まれたりは・・・」
シャチ「てめー!!俺達が泥棒でもするっていうのか!??ふざけんなよ!!!よそもんが!!!」
アインはビックリして顔が紅潮し固まってしまった。
モハメッド「ちょっと、ちょっと待て!シャチ。お前、言い方ってものがあるだろ。あっ、皆さん、大丈夫ですよ。これから、俺達は同じ仕事をする仲間だし、小屋の前には守衛としてギャバさんもいらっしゃいます。俺達はあなたたちに危害を加えるつもりもありませんし、なんならそちらもエリーゼさんだけ残ってもらっても大丈夫ですよ。どちらにせよ、明日からはエリーゼさんには小屋の中での作業を頼もうと思ってましたし・・・。」
エリーゼ「ごめんなさい。気を悪くされたなら謝ります。大丈夫です、ここはサチちゃんだけで。私もついていかせてください。」
エリーゼは礼儀正しくモハメッドに頭を下げた。
モハメッド「わかりました。エリーゼさん、顔をあげてください。では、皆さん準備を急いで。出発しましょう。」
ユウキはそっとアインの肩を二度たたき促した。
俺達は仕事の内容もわからないまま、急いで各々準備をした。
モハメッド「では、皆さん。行きましょう。」




