世界の崩壊
西暦2050年
中国広南省北部
国家機密のある実験が行われていた施設があった。
表向きは医薬品の開発機関とされていたが実際はそこは化学兵器の研究所であった。
この施設で開発されたT-2055という薬品が人体のみに化学反応をおこす物だとは当時、誰も知ってはいなかった。
ある朝当直の職員1名が高熱を出す。当初インフルエンザに似た症状だった為この職員は個室にて休んでいたが翌日の朝、突如発狂し看病に訪れた別の職員へ襲い掛かった。
発狂した職員はすぐに大勢の職員に取り押さえられやっとのことベッドに身体拘束用のベルトで繋がれた。それでも尚暴れる職員は眼球が真っ赤に変色しており髪の毛も白髪になっていた。その様子は常軌を逸しており研究所の職員から国の上層部へ報告された。
幸いにも看病に訪れた職員は右手を噛まれただけで大きな怪我をすることはなかったようだ。しかしすぐに先の職員と同じように発熱し体調を壊してしまった。
~7日後~
中国広南省北部 とある農村
幼い兄弟が納屋に隠れ息をひそめている。弟は泣くのを必死に堪え自らの両手を強く口に押し当てわずかばかりの吐息も漏らさないよう頑張っていた。兄は納屋の隙間から外の様子を伺っていた。
隣の張おばさん。いつも優しく僕たちに蒸しパンをご馳走してくれる。僕らの両親は都会に働きに行っていないけど張おばさんがいるから安心して毎日暮らしていた。
今朝、兄はいつものようにおばさんの家に挨拶にいった。ドアを開けると蒸しパンのいい匂いがした。いつものように玄関で待つも誰も出てくる気配がない。少年は不思議に思いながらも居間までおばさんを探しに入る。
朝日が窓から差し込む居間には湯呑が2つあり未だ湯気がたちのぼっていた。だがここにも住人の姿はなかった。ふと少年は台所に人の気配を感じる。
いつも張おばさんが蒸しパンを作っている台所、少年はニコニコしながら台所を覗いた。
そこには首を噛み切られあと少しで胴体から切り離されそうになった夫に血だらけで顔を朱く染めた張おばさんが尚も胴体をむしゃぶっていた。
少年は恐怖でその場から動くことができずにいた。幸いにもその張おばさんだったモノは少年に気づかず夫だったものに夢中になっている。
少年はハッと我にかえる。一刻も早く逃げたいが体がいう事を聞いてくれない。足が動かずその場でドズンと尻もちをついてしまった。
その音に張おばさんだったものは反応する。少年は必死にあとずさりするも立つことが出来ずにいた。
張おばさんだったモノはジーと少年を見つめ夫だった肉塊から手を離した。
ゆっくりと立ち上がり少年の方へと1歩、2歩と近づいた。その時、外から銃声が聞こえた。
1発・・・2発・・・・張おばさんだったものは少年から目を背け窓の方へ視線を移し外を気にしている。
バン!!3発目が鳴ったと同時に張おばさんだったモノは窓を突き破り獣のような速度で銃声の聞こえた方角へ飛び出していった。
少年はなんとか壁伝えに立ち上がり未だ震えている体を動かし、なんとか隣の自宅へ帰ろうとする。
少年は家に残してきた弟の事が心配だった。まだ家を出てから10分も経っていなかったがもう何日も会っていないような気がしていた。
少年が家に戻り弟の名前を呼ぶ。しかし、何の返事もない。少年は一瞬さきほどの光景を思い出す。・・・・まさか。慌てて弟の寝室へ急いだ。
寝室の弟のベッドには何かを布団が覆い姿を確認できなかった。兄はおそるおそるその布団を勢いよく剥ぐ。中には少年の弟がまだ丸まったまま寝ていた。
~10日後~
少年と弟は自分達の生まれ育った村を捨て命からがら逃げきり何とか両親がいる街を目指していた。
途中同じように自分の村を捨て街へ避難しようとしている人達に拾ってもらえた。徒歩であれば2週間以上かかる道のりであったが彼らのバスに同乗させて貰えたことは幸運であった。
4日目の夜には街を見下ろせる山頂まで近づいていた。
山頂から望む町の光。本来であればロマンティックな街の灯だったろうが彼らが目の当たりにした光景は地獄絵図そのものだった。
街の灯りは消え、いたるところで火災が起きている。その火によって照らされる街の様子は建物は破壊され道は車で埋めつくされたいた。
一緒に逃げてきた青年の一人がバックから双眼鏡を取り出し街を見ようとしていた。その青年は次第に震えだし裏の茂みに走り出し嘔吐してしまった。
双眼鏡を渡された少年は慌てて街を見る。そこには張おばさんのようになった沢山のモノが動いていた。双眼鏡の先には車でその集団から逃げようとしている人達がいた。二人組は車で逃げるもすぐに道は放置された車で塞がっており車を乗り捨て逃げようとしている。後ろからは大量のそれの集団が猛速度で2人を追いかけていた。
彼らはあっというまに100はいるだろうその集団に飲み込まれていった。
少年は今見た光景を伝えようと急いで周りの人達に伝えようとした。
少年が振り返った時、そこには先程茂みに向かっていった青年に食らいついているモノがいた。
少年は隣にいた弟の手をぎゅっと握るのであった。
~31日後~
アメリカ コロラド州 とある町。
世界保健機構(WHO)は全世界に緊急速報を出していた。
「現在、謎の感染症が流行しており感染者が増大しています。特に都市部での感染率は上昇しており外出をしないことを推進いたします。この病気に対する治療方法は今現在見つかっておらず、まずは感染を予防することに努めてください。繰り返します~・・・・・・・・
TVの繰り返されるニュースを見ていた初老の男性はリモコンでTVを消す、テーブルに置いてあったカップを持つと温かいコーヒーを一口噛みしめるように飲んだ。彼はそのまま窓の方へ近づく。
外には多くの感染者が逃げ惑う町の人々を襲っていた。
「神よ・・・あなたは我々を見捨てたのですね。」 窓の外には1匹の感染者が人の腕と思われる肉を持ちながら歩いていた。その感染者は男性に気づきゆっくりと向かってくるのであった。
~50日後~
国連が全世界に非常事態宣言を出す。
すべての人類へ 只今『 全世界ゾンビ感染警報及び壊滅命令 』が発令されました。すべての人類は国家間で協力し速やかに対応をとってください。繰り返します~・・・・・
ラジオをから流れるその町ではすでに人間はいなく大量のゾンビが町を徘徊していた。