7
暗い暗い闇の中、それは今日も目覚めた。目に映るのは自らも溶けてきてしまいそうになる黒だけ。その暗闇はそれにとっていつも傍にいる暖かな毛布のようなものだった。闇は物を音をすべてを覆いつくし、同じ色に染め上げる。闇の帳に覆われた世界は小さな音でさえ。、響き渡った。それはそこで夢と現実の狭間を行き来していた。ただ、それが夢なのか現実なのか問うことはない。それにとって夢も現実も大きな違いなどない。それに見えるのは闇しかなく、闇以外の世界など与り知らぬものなのだ。
「ねえ、起きて頂戴」
その日それは初めて音の連なりを聞いて目を覚ました。薄っすらと目を開けても瞳に映るのはいつもと同じ色だけ。再び瞳を閉じようとすると、また音が聞こえた。
「ここよ、ここ。声は聞こえているんでしょう」
それは目を開き、周囲を見渡した。しかし、目新しいものなど何も見えない。
「もうっ、こっちよこっち。ああわたしが天にも届くような大女だったらよかったのかしら。それなら迷子にならないし、足だって長くなるかも。でも日常生活は送りにくそう……。一長一短、そううまくは行かないものよね。知っているわ、そううまくすべてのことは運ばないなんてことは。だから156㎝の身長で文句は言わないわ。あなたには気づいてもらうけれどね」
音はするのに何も見えない。なにかは夢の中にいるのだろう。ゆっくりと夢の中に身を沈めようとすると、足に何か違和感があった。首を回し足を見ると、そこにはちっぽけな何かかがいた。
「ようやく見てくれたわね。私は…、ひゃうん」
ちっぽけなものをつまみ上げると、それはまた音を発した。それは面白く、掌に載せ眺めた。急に静かになったので降ろそうとすると再び音を発した。
「こんなにも意思疎通できなのね。言葉位は伝わるとどんぶり勘定していた私が悪い。大丈夫、作戦を考えなおせば良いだけ。わたしはできる子よ」
それからそのちっぽけなものはそれの傍から離れなかった。それもはじめてみるものに興味を抱いた。静かな世界を切り裂く音を。それは案外心地よい。出ていきたくないものと、居てほしいもの。奇妙な共同生活が幕を開いた。