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幻日譚  作者: 麓城結社
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断章

 炬燵、蜜柑、緑茶。この3セットが揃えばどんな人もうたた寝してしまう様な温い気持ちになると思っていたのに目の前の女子高生は違ったらしい。舌がくるくるとよく動いている。

「って、ねえ、みいちゃん、聞いてる?」

「聞いてる、聞いてる」

「絶対聞いてない」

「彼氏の話、ちゃんと聞いていたから。純粋ですごくいい子じゃない。そろそろ帰らないと美樹姉さんに心配されるよ」

「帰んない。泊めて」

「姉さんとなんかあったの」

「別に。あの人と話したくないだけ」

「そうは言わずに。姉さん心配してるよ」

「心配して欲しいなんて頼んでないし。今日あの人と会いたくないの。ねっ、お願い、駄目……?」

 そのお願いっていう目に昔から弱い。

 共働きの姉夫婦の一人娘である彼女は在宅でも仕事のできる私の家に良く預けられていた。そのためか私に懐いてくれ昔からよく家に遊びに来ている。最近は専ら教育熱心な親から逃げ出したいときにやってくるようになっている。独り暮らしの我が家だし私が、彼女が来ることを迷惑に思っていないことを知っているから勝手にさせているようだ。ただ、今は受験期。遊んでいる暇なんてないから帰すようにと言われている。ただ、ガリガリ勉強するのが苦手だった私からすれば逃げ出したい気持ちは分かってしまうのでつい甘くなってしまう。

「しょうがないなあ。今日だけだよ。課題だけはちゃんとやること」

「みいちゃんならわかってくると思ってた! 課題は終わっているから大丈夫」

 そう言って彼女はこたつにとっぷり潜り横になる。私がお風呂を焚き、ご飯ができるころにはすっかり寝静まっていた。女子高校生といえどもこたつの魅惑にはかなわないようだ。普段の大人びた表情は影を潜め、あどけない寝顔を浮かべている。時折もぞりと動きながら喃語のような寝言を言うのは幼いころから変わらない。その微笑ましさから思わず頭を撫でてしまう。サラサラな髪の毛。様々なことに興味津々で止めたって頭を突っ込んじゃう。友達と遊ぶことが好きで相手のことも考えられる。喧嘩しちゃったと泣いてきたこともあった。いろんなことに一生懸命で可愛らしい。すやすやと眠る彼女を見ていると仕事で思い悩んでいたことに対しての一つのアイディアがぽこんと生まれた。私が形にしたいと思ったもの、その一つは特別なことはなくとも柔らかに流れていくものなのかもしれない。そしてそこに在る人、物。数珠つなぎで浮かぶものを逃さないよう急いでこたつを出てデスクにあるPCを立ち上げる。起動時間さえもがもどかしい。立ち上がったPCに流れ溢れてくるものを急いで書きつける。思考に置いてきぼりを喰らわないように。

静かな部屋にキーボードをたたく音と彼女の寝息だけが響く。人付き合いがあまり得意ではない私にとって、人が家に来るというのはなかなかないし、来られても落ち着かない。しかし彼女がいるということは何とも言えない安らぎを感じる。私が彼女を守っているようで、助けられているのは私なのかもしれない。静かに更けていく夜は寒いけれどどこかいつもより暖かかった。




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