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音は私を支配する。大きな足が、手が鎖に縛り付けられたかのように動かなくなる。なめらかな音の連なりは妙に心地が良い。身動きが取れない恐怖感と身を任せてしまいたくなる安心感が私の胸の裡でせめぎあう。
ふと私の頭に母さんの咆哮が轟いた。それは安寧に身を委ねようとした私への警告の様だった。それは幻想にすぎなのだろう。しかし、私の体の裡にずんと響いた。
私は頭に響く母さんの咆哮に乗せ、叫ぶ。叫びは私の口から滑り落ち、なめらかな音を切り裂いた。小さき者は一度身震いをした。しかし、その音は微かに繋がり、また勢いを取り戻す。それは大それたものではないのになぜこんなにも囚われるのだろう。私はその音に反抗し、腹に力を込め、息を吸い込み、叫びをあげる。
小さき者が音を紡ぎ、私がそれを切り裂く。しかし切り裂いても切り裂いても、音が途切れることはない。対抗している筈の二つの音は徐々に妙な連携を取り始めた、お互いの呼吸が見えてくるのだ。すっと広がり勢いを持ってうねり、乱暴な私の音が轟く。そして消えかけた音は柔らかな音を伴って再生する。
顔を上げると小さき者と目が合った。負けはしないという勝ち気な瞳と、今までに見たことのない満面の笑み。恐らく私も同じような顔をしているのだろう。顔の使ったことのない筋肉が動き引き攣るのを感じる。
お互いの声がかすれてきても、どちらかがやめるまで止まることはない。一歩でも引いたら負けというのは暗黙の了解だ。音と共に私たちは初めて分かり合う。それは何よりも強く私たちを結びつける。私も小さき者も息絶え絶え。それでも続く。
どれだけ続いたのだろう。今まで以上に音に力がこもる。ここが正念場か。私もボルテージを上げる。熱を帯びる音と音に私の心臓は高鳴る。お互いの持つものを出し切るかのように互いの音が重なった。それはぐわりと洞窟中に響き渡る。そして音の連なりは消えた。後に遺ったのは微かな残響だけだった。