13
暗いこの洞窟は思っていたよりも小さかったらしい。あるいは私は知らないうちに大きくなったのだろうか。頭を動かせば天井が、足を踏み出せば地面が、腕を伸ばせば壁が、はらりと崩れ、光が漏れ出る。猛々しい光は微かな隙間からも入り込み私を刺す。久しぶりの感覚に気分は高揚してくる。手を広げようと思って急に思い出した。そうだ私の掌にはあのものが居たのだ。柔く握っていた手をそっと開くとその小さき者は暴れていた。
「何、どうしたの? 動き始めたと思ったら急に私を摘まみ上げてどうするつもりなの。ちゃんと説明してくれなきゃ分からないじゃない。それにこんなに洞窟崩して何がしたいの。意思疎通できないから何も分からないし、キャラ読みもできないし……。あーん、もどかしい!」
どうしたのだろうか。動きを止め、じっと見ると小さき者の動きも止まった。
「え、何で急に止まって私の子と見ているの? 表情も読めないからなあ。何がしたいんだろう。ああもう誰か説明してよ」
頭を抱えうずくまってしまった。そんな姿が見たいのではない。今までのくるくると動く姿が見たい。私はゆっくり丁寧に息に音を乗せる。小さき者の音は分からないし、気持ちは読み取れない。それでも、この柔らかな音に今の思いを込める。まるで伝わらないとわかっていても、今できるのはこれだけなのだから。
「どうしたの、おはようって連呼し始めて。何か言いたいのかな。言葉が交わせないってこんなに不便なんだね。頑張ったんだけどな、もう分からないよ」
そのものはゆるりと笑った。それなのになぜか私の背がぞわりと震えた。何をしようとしているのだろう。
私が一生懸命音を乗せても小さき者の表情は変わらない。私は諦め、歩みを進めた。やかて洞窟を抜け、外に出た。光は体中を刺す。その明るさに耐えられず、洞窟の中に潜り込んだ。
「君は外に出ようとしているんだね。それは一等駄目なんだ。話せば伝えられる、そう思っていたけどもう駄目だ。ごめんね」
耳から音が流れ込んでくる。その音は耳から頭、そして全身に染み渡っていた。身を委ねろ、そう言われているような音に逆らえず、私はゆるり音に取り込まれていった