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幻日譚  作者: 麓城結社
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 深い深い穴の中は全てのものを溶かすように黒く、静寂が支配していた。気まぐれに声を発してみると、それは静寂を切り裂き響き渡った。しかし、次第に音は闇に吸収され。零に戻る。あるのは自分の体と冷たく冷え切った母さんだったものだけ。時折母さんの体に触れてしまうとあの時のことがありありと浮かんできてしまう。私は匂い立つ記憶を閉じ込めるよう眠りにつく。夢と現を揺らめいているときだけ何も考えずにいられた。

 どれだけ時間が経ったのだろう。時間間隔が消え果たころ、巨人が闊歩するような地震が襲ってきた。洞窟の壁にひび割れ、瓦礫が頭上に落下した。私の腹と体を揺らした。その感覚に私は妙な懐かしさを感じた。決して優しくなく、言葉も交わさない。しかし、いつもそこに大きな体を横たえて、私を受け入れてくれた母さん。その体から発せられる音は恐ろしいほどに大きいと同時に何ほどにも敵わないと思わせるほど力強かった。私はそんな力強さが好きだったのだ。

 私は地震を体中で受け止めた。知らないうちに顔に熱が集まってきた。口から咆哮が漏れた。その音は地震と混ざりあい響き渡った。


 地震と共に我が洞窟は崩れ去った。私は新たなねぐらを探すべく外に出た。

 外は目が潰れるほどに明るかった。居ても立っても居られなくなり、私は近くの穴に潜り込んだ。暗い穴に身を沈め、気持ちは徐々に落ち着いていった。ここも今までの場所と比べ物にならないほど暗い。暗闇の中でゆっくりと目を瞑れば夢も現実もすべてが溶け出し曖昧になる。そんな世界でなら母さんの横で眠っていられる。

 そんな時間は知らぬ間に過ぎていく。私は曖昧に溶け合った世界でゆらり浮くように呼吸する。目に見えるものは暗闇だけで、それ以外の世界など遠い記憶の中だけ。

 そして今目の前にいるのは遠い昔会ったあの者に似ている。

 

 私は一つ、咆哮を上げる。それはまだ母さん程の威力はない。しかし、このねぐらにはよく響き渡った。

 私はもう一つ小さく声を上げる。私はぐるりと首を回す。ああ、頭が突っかかった。無理に動かすと壁が壊れた。そこから光が差し込む。私は妙に面白くなってきた。 

私はそっとその者を掌に載せた。そしてゆらり体を起き上げる。夢に揺蕩うのはやめ、あの頃の様に外を覗こう。私は一歩踏み出した。


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