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幻日譚  作者: 麓城結社
12/16

10

 その頃、それ、いや私は闇の中に居なかった。

その頃から洞窟に住んでいた。しかし、その頃はまだちっぽけな塊のようなものでどこにでもするする滑り込めたうえ、動くことに対して楽しみを感じていた。私は洞窟の上に広がる世界に顔を出し抜けるように青い空と流れていく雲を眺めたり、岩の隙間を縫うように進んで探索したり、青々とした草むらに鼻と体を埋めたり……、日々には発見ときらめきがあった。そして中も外も同じくらい暗くなってきた頃、ねぐらに戻る。そこには大きな大きな母さんが寝ている。私は母さんの唯一柔らかい腹に体を預ける。

 母さんは滅多に動かない。私が何をしようとゆったり雄大に暗闇の中に体を埋めている。時折お腹の底に響く声を出す。最初は私のお腹を、次に転がる小石を、そして地上に生える草を……、声は出す度に大きくなる。私はだんだんと怖くなり、母さんの体の固いところにしがみつく。声は留まることを知らずさらに大きくなる。外殻を通してもなお響く音。それは何も知らない私までも何かの前触れではないかと不安になるものだった。


 その日は妙にくすんだ天気をしていた。何をしても気分が乗らず、早々にねぐらに戻ることにした。すると、どこからともなく、聞いたことのない音がする。私は知らず知らずのうちその音に釣られ進んでいた。

 たどり着いたのは細い路地のような道を抜けた先にある、ぽっかりと空いた空間だった。そこには見たことのないものがいた。それは私よりも大層小さかった。そして聞いたことのない音がそのものから流れ出ていた。私は呆然と動けなくなり、しばし眺めた。

 唐突に音がぷつんと途切れた。体が解放される。しかし、それよりもあの音をもう一度聞きたい。私はそのものを見つめた。

 ふと、そのものの目が私を捉えた。目がぐっと大きくなる。

「あれは何? まさか? いいえあんなにちっちゃいわけがないわ。それじゃ私が此処に来た意味にならないわ」

 何やらもぞもぞしている。私はあの音がもう一度聞きたくて慣れない動作で喉を鳴らす。

「こんな音じゃあない。じゃあこれは子分とか? 凶悪なのかしら。ううん、そんなこと考えたって無駄ね。もうここにいる時点で全て捨ててきたんだから」

 そのものはこちらに一歩ずつ近づいてくる。そして私の前で腕を差し伸べた。

「こんにちは」

 その笑顔は私の脳裏に焼き付いた。


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