愛しき矛盾
2ヵ月前、お付き合いしていた人がいた。
「初めてのおつかい」なんかで泣いてしまうような、優しい人だった。
他人への共感性がとても高いのに、自分のことはてんで駄目。
悲しいとか辛いとか、自分の傷にはとても鈍感なのだ。
自身を犠牲にして誰かを守る。
私は彼自身をもっと大事にしてほしかったけれど、
護ったものを見て嬉しそうに笑う彼を見たら、もう何も言えなくなってしまい、ただ側にいた。
いつ また誰かのために 彼が傷つきはしないかと、不安だった。
なのになぜだか、彼の隣は安心した。
矛盾してる。
「好き だったなぁ」
もう会うこともないであろう愛しい姿を想って、
スマホの明かりを落とした。
消える直前 画面に映し出された
「一件 削除しました」
の文字が、やけに瞼に焼き付いていた。




