ーーの始まり。ーーの終わり。
二三四六年。人類は人口増加による食糧危機に直面していた。
そんな中、ヒトは進化を果たし、『吸血鬼』と『ゾンビ』と言われる存在が現れた。
現在、この世界にいる人類は『人間』『吸血鬼』、そして『ゾンビ』の三種族に分類される。
ゾンビとは、人間の血肉を食料と出来る存在である。一昔、いや数百年前に流行ったゾンビ映画の様に身体が腐っている、という訳ではない。外見は至って普通の人間と同じなのだ。
違うのは目の色が紅く、夜行性だ、というくらいだ。
今のところゾンビは、人間が最初に進化した存在だと言われている。
人間の進化先が人間を食らう存在など、皮肉も良いところだろう。
それに対して吸血鬼はゾンビがさらに進化した結果だと言われている。人間と共存する為に、他者の血液のみで栄養を補える存在だ。
外見としては、美形が多く、眼は金色で色白な者ばかりだ。
「どうしたの?レイ」
抱きつく様に笹原 麗亜の背から腕を回した彼、九條 壱夜は尋ねた。
「別に。ただ、人類が人間と吸血鬼と、ゾンビに分けられた頃のことを考えてただけ。アンタが…イチがそんなに美形なのはそれ以前のご先祖様の影響かって」
「何それ。もしかして僕の外見を褒めてくれてるの?ありがと」
「別に」
壱夜は蜂蜜色の双眸を優しく細めて麗亜の頬に軽くキスをして、壱夜は彼女の左に寄りかり、麗亜の右手をそっと握った。
「でもさ、なんか不思議だよね。この招待状。これからどうなるんだろうね、僕ら」
「何があってもやることは一緒。例え殺しあうことになったら…」
「「刺し違えよう」」
何も怖くはない、2人なら。
もし、この場に1人きりなら、どちらとも取り乱すか何かしていただろう。それほどまで彼女らは依存しあっていた。
そこから先は何も言葉を交わさなかった。
2人きりのAI搭載型クルーザーのデッキに寄りかかったまま、目的地に着くのを待った。
口を開かずとも、2人の考えることは同じであった。
彼等はこの時点で既に知っていた。否、この招待状が届く前から知っていた
この招待状を送ってきた『Game master』の正体を。
何故自分たちが選ばれたのか、と言うことを。
コレが単なる抽選によるパーティーなどではないことを。
数時間して、クルーザーは小さな無人島に辿り着いた。中央に大きな洋館と高い塔のある島に。
そこにはきっと6人ずつ、それぞれの『人類』が集められているだろう。
そして、あの忌々しい言葉を告げられて、2人を引き裂こうとするのだろう。
それを覚悟で、この船に乗ったのだ。2人に後悔はなかった。
ただ、あるとすれば……怒りだった。
コレが、彼等のサバイバルゲームの始まりである。
これから始まるのは彼等の体験した事実である。彼等の下した決断である。
「……ねぇ、レイ」
繋いだ手に力を入れて、壱夜は声を出した。
「何、イチ」
「絶対にアイツらをぶっ殺そうね」
「ーー」
麗亜の言葉は風に掻き消され、壱夜の耳には届かなかった。
しかし、彼女が何でもなさそうな横顔のまま握り返した手に、壱夜は満面の笑みを浮かべて彼女を抱きしめ、最後に彼女に口付けた。
そして2人は、それまで握っていた手を離し、クルーザーを降りた。
2人の向かう先は、あの大きな洋館だった。