イミテーション ラブ
今、この瞬間が、本当なんだ。
窓辺のポインセチアの赤が目に鮮やかだ。
七階のホテルの一室から見下ろす夜の神戸の街は、クリスマスのイルミネーションでいつも以上にキラキラしている。
道行く人々が足早に通り過ぎる。
何だか、早送りの映画を見ているようで、思わず、目頭を押さえた。
「どうしたの?」
ベッドから半身を起こしたマユが不思議そうに小首をかしげる。
「うん…。なんか眩しくて。」
「変なの。」
クスッと笑うマユとは、つい数時間前、花屋の店先で出逢った。
今にも雪が降りだしそうな寒空の下、ミニスカートでしゃがみこんだマユは、ズラリと並んだポインセチアの白い鉢を熱心に見つめていた。
ーもう、そんな時期かー
僕は何気なく、一際大きく開いたポインセチアを一鉢、ひょいと掴んだ。
「あ!」
大声にびくりとする。
「え?」
「あ、あの…。」
女は、眉を八の字にして泣きそうな顔で、僕の顔と僕の手にあるポインセチアを交互に見比べている。
「あ…これ?」
女はこくりとうなずくと、ふわりと微笑んだ。
その顔はとてもあどけなくて、まさか、僕より六つも歳上とは思わなかった。
こうなったのは、成り行きか、クリスマスの高揚感か、もしくは感傷か…。
僕は一人だった。
マユも一人だった。
クリスマスの街をさまよう二人は、「孤独」という魔物を抱えていたんだ。
僕は「孤独」を飼い慣らしたつもりでいたけど、それは、錯覚だったみたいだ。
だって、マユの躯こんなにも温かい。
無機質なホテルの一室なのに、今夜はどうしてこんなに気持ちがほぐれていくんだろう。
「ねぇ、こっちおいでよ。」
マユの呼ぶ甘い声に、ハッと我に返る。
ベッドの中で、柔らかい猫のようにマユが、僕に躯を寄せる。
「ポインセチアの魔法かな?」
マユの顔が、ふわっと笑み崩れる。
ー例え、偽りの恋でも、今、この瞬間はきっと本当なんだー
僕は、温かなマユの躯をそっと抱き締めた。
窓辺のポインセチアの赤が、街の灯りを受けて、静かに瞬いた。
窓辺に飾ったポインセチアを見ていたら、ふっと浮かんできた作品です。
クリスマスの魔法のような甘いお話になりました。
ちょっと刹那的な恋。そんな恋もある。
ご一読ありがとうございました。
石田 幸