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さて。今更だけど、俺の名前は八坂創やさかはじめ

この春から高校生になったばかりのピッチピチの15歳だ。…まぁ、聞いての通り、入学式は出られなかったわけだが…。


俺のウチは、普通のサラリーマンの父・いたると専業主婦の母・百合子ゆりこ、それから1個下の弟・なごみの4人家族だ。はたから見たらごく普通の一般家庭だけど、その経歴…っていうか家系?ってのがちょっと他とは変わっている。


俺の父方の家系が、代々続く召喚勇者の家系なのだ。


『突然異世界に召喚された一般人が魔王を倒してくれと頼まれる』みたいな話、よくあるだろ?その『召喚された一般人』ってのに選ばれやすいのが父親の家系だ。


何がきっかけでそうなったのかはよくわかんねぇけど、だいたい江戸時代くらいから召喚されてた記録が残ってるらしい。そんで、召喚されるのは決まって左眼に召喚陣が刻まれて生まれた男子で、その召喚時期は12、3歳ごろから20代前半まで。

なんでそうなのかなんて、理由は分からんから俺に聞くなよ。昔からなんでかそう決まってるんだ。


父ちゃんも俺と同じように左眼に召喚陣があるから、若い時はよく異世界に召喚されて勇者ってやつをこなしてたらしい。見た目は普通の優男だからそんなことしてたなんて全く思えねぇんだけど、俺は未だに父ちゃんに勝てる気がしない。めちゃくちゃ強ぇんだよ、あの人…。


召喚陣のある男子は、幼い頃からありとあらゆる戦闘技術を叩き込まれる。

柔道、剣道、弓道なんかの武道から、短剣・長剣・日本刀などの刃物の使い方と戦い方、銃火器の扱い、実践的なサバイバル知識などなど。召喚される異世界がどんなとこかわかんねぇから、ありとあらゆる環境を想定して、どんなとこでも生き残れるように訓練する。


よぉく考えてみて欲しい。本当にごくごく普通の一般人が、突然異世界に連れていかれて急に戦えって言われても戦えるわけねぇじゃん?

だから、確実に異世界召喚されるってわかってる俺みたいな奴は、ご先祖様からのノウハウに従って色々仕込まれるわけだ。いわば、勇者の英才教育だな。


まぁ、そういうわけで、普通とはちょっと違う教育を施された俺は、ご先祖様からの例にもれず13才になった年に最初の異世界召喚をされ、無事ラスボスを倒して帰還した。

それから召喚される度に異世界と日本とを行ったり来たりして、ついさっき7度目の異世界召喚から日本に帰って来たところだ。


幼い頃から稽古や訓練に明け暮れ、召喚され始めてからは、突然長期で学校を休んだり、弟のいうような…なんていうか、その…厨二?(小声)的な言動のせいで、友達というものが俺にはいない。


異世界では、旅の途中で出会う冒険者達とパーティを組んだことは何度もあるけれど、それがこっちでいう普通の友達とは違うというのはなんとなくわかっている。

普通の友達は、突然真剣で切りかかってきて勝負を挑んだり、負けたら弟子にしてくれって言ってきたり、運動不足だからって理由で一緒に迷宮ダンジョンをクリアしようとなんてしないってことくらい、俺だってわかってる。


もちろん、異世界で出会った旅の仲間たちは大事な存在だけれど、俺は現実こっちで、ちゃんと、普通の、友達を作りたいのだ。


異世界で勇者生活をするのは、長くても20代前半まで。人生100年、なんて言われる昨今、残りの80年弱を友達のいないまま過ごすなんて寂しすぎるじゃないか!

10代の頃に出会う友達が本当の友達だ、とか聞くし、それに何より、学校で休み時間にふざけあったり、放課後に寄り道して帰ったり、恋話しながら青春したりしたいのだ!!俺が!!今!!


というわけで、俺はこの高校生活に賭けていた。幸いにも、今度から俺が通う大松高校に元の中学から通うのは俺1人だけだ。つまり、俺の過去を知る人は誰もいない環境を、俺は手に入れたのだ。

だから俺は、ここで華々しく高校デビューを飾り、沢山の友人に囲まれたバラ色のスクールライフを満喫するつもりでいた。


それがフタを開けてみれば、中学の卒業式が終わって家に帰ってきた直後に異世界に召喚されて、戻ってきてみたらもう5月。


無事にクラスに馴染めるのだろうか…。





俺が新生活に不安を抱いている間にも着々と時は過ぎ…。

ゴールデンウィーク明け初日の今日、俺は真新しいブレザーに身を包み、これから俺が3年間通うことになる大松高校の職員室の前に来ていた。

なぜって、入学式に出ていない俺は自分の新しいクラスを知らないからだ。

担任から1度電話で連絡があったらしいのだが、うっかりさんな母さんがメモし忘れたために俺のクラスは分からずじまいだ。


ちなみに、俺は入学式前に持病を拗らせて入院していたことになっている。中学時代も、召喚される度に同じ理由で学校を休んでいるから、信憑性はあるんじゃないかな。こういう時のために、あらかじめ父方の親戚の病院から偽の診断書を学校側に提出してあるから、問題ないだろう。


とりあえず、中に入らねば何も始まらないので、俺はコンコンコンとノックしてからスライド式の扉をガラガラと開けた。


「失礼します…」


おずおずと顔を覗かせる俺に気づいたのは、1番扉の近くの席にいた、メガネをかけた若い女性教師だった。


「はいはい、どうしたのかな?」


席を立ってこちらにやってくる教師は、長めの黒髪を飾り気のない黒のゴムで1つに結んだ、小柄な女性だった。女性的な魅力溢れる体つきとは程遠い華奢な体つきをしており、真っ白なワイシャツの上から羽織ったダボっとした紺のカーディガンが、小柄な彼女の体をより一層頼りなく見せているような気がする。その優しげな顔つきと物腰の柔らかさとが相まって、小学校の教諭か幼稚園の保母さんのような雰囲気だが、この部屋にいるのだかられっきとした高校教師なのだろう。こんな様子で生徒にナメられたりしないのか、余計なお世話かもしれないが気になってソワソワしてしまう。


「ん?何か用事があって来たんじゃないのかな?」


思考の淵に立っていたせいで沈黙したままの俺に首を傾げる教師の声に促され、俺は一旦考えるのはやめて目の前の教師に向き合った。


「すまな…いや、すみません。ちょっと考え事をしていまして…」


目の前の教師から全くもって威圧を感じないので、うっかりタメ語で話すところだった。コッチでは戦闘能力の有無ではなく、基本的に年齢によって人と人との上下関係が決まるのだ。ちゃんと敬語を使わなくては!


気を取り直して、俺は今ここに俺がいる理由…つまり、入院していてクラスがわからないから教えて欲しいことを伝えた。


すると教師は、すぐさま理解した様子で、


「君が八坂くんかぁ!元気になって良かったね!」


なんて、心底嬉しそうな笑みとともに温かい言葉をくれたうえで、俺を担任の元へと連れて行ってくれた。

この教師は、戦闘能力は皆無だが、人格者ではあるようだ。うん、もし彼女の身になにかあれば積極的に助けることに吝かではないな。


俺を担任の元へと送り届けた去り際、女性教師に名前を尋ねたら望月だと答えた。望月先生か…覚えておこう。


さて、改めて俺の担任だと言う教師に向き直る。そこには、実にガラの悪い…ここを夜の酒場と間違っているのではないかと思うような格好の男性がいた。一応スーツは着ているものの、シャツの開襟具合が際どすぎる。現代知識に疎い俺でもわかる。これは何か違う、と。


「お前が八坂ねぇ…。なんかあんま病み上がりっぽくねぇな」


その教師にあるまじきやさぐれた雰囲気の担任の男…長いな…もう普通に担任でいいか。その担任は、手元にある資料と俺を見比べて怪訝そうに眉を寄せている。

TPOにそぐわない格好はさておき、人を見る目はあるのかもしれない。確かに、俺は病み上がりではない。超がつくほどの健康優良児である。そこをつっこまれると弱いなぁなんて俺が内心ドギマギしていたら、


「まぁ、いいや。お前が仮病だろうが本当に病み上がりだろうがどっちでもいいしな」


あっさりと資料を放り出して追求をやめてしまった。

俺としてはありがたいのだが、一言いわせてもらいたい。


お前、もっと生徒に関心持てよ!!


軽くあくびを噛み殺しながら、担任は面倒そうに俺にクラスを教えると、あとは勝手にしろと職員室から追い出した。


落差が…望月先生との落差がっ!

温度差で風邪引くわ!


まぁ、とりあえず、クラスは分かったのでそちらに向かうことにする。


「1ーCか…」


どんなクラスだろうか。

あんな担任のまとめるクラスかと思うと不安しかないが…。

とりあえずここまでです。


面白かったなぁと少しでも思っていただけましたら幸いです。


それでは、ありがとうございました!

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