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偽り

高層ビルの社長室で雪が部下に問いかける。

雪「あの男の素性はわかったか?」

部下「はい、ですが…そのような会社名、代表者名は存在されていませんでした。おそらくあのホームページは架空の会社によるものかと…」

雪「何だって…」

雪の目つきが鋭い目つきに変わる。

トントントン

ドアのノックと共に秘書の日和が入ってくる。

日和「社長そろそろお時間です」

雪「わかった、すぐ行く」

その言葉に日和が一礼し部屋から出る。

雪「あの男の素性を徹底的に調べ直せ、どんな手段をつかってもかまわない」

そう言って眼鏡を外しさらに鋭い目つきに変わる。

部下「はい、かしこまりました」

二人が話してる内容を日和がドアの外で盗み聞きする。


日和「行ってらっしゃいませ」

バタン

ドアを閉めると部下の運転する車で会社を後にする。

交差点の赤信号に差し掛かり左側のカフェに目をやると、窓際の席で美咲と宇佐美が楽しそうに会話をしている。

部下「いいんですか?このまま見過ごして」

雪「構わない、時期にわかるだろう、あの男がどんな男なのかが」

そう言い放つと信号が青に変わり車が発進する。




美咲「あはは、宇佐美さんってほんと面白いですね」

宇佐美「そうですか?」

何気ない会話を楽しむ二人、宇佐美といると自然と笑顔になり居心地の良さを感じる美咲だった。

宇佐美「あっ、そうだ、商店街の福引きで当たったんですけど、よかったら今度一緒に行きませんか?」

そう言って鞄からチケットを取り出す。

チケットを見ると、それは衛が亡くなる前日に行った遊園地のチケットだった。

美咲は、衛と行った楽しかった遊園地の出来事を思い出す。

物想いにふけていると、宇佐美が口を開く。

宇佐美「あっ、迷惑ですよね、すみません、忘れてください」

苦笑いしてそう答える。

美咲「そんなことないですよ、こんな私でよければ一緒に行ってもらえませんか?」

予想外の言葉に宇佐美が目を丸くする。


当日

美咲が遊園地の入り口に向かうと既に宇佐美が待っていて腕時計を確認して立っている。

美咲「すみません、お待たせして」

宇佐美「気にしないでください、僕も今来たところですから…じゃあ行きますか」

そう言って美咲に手を差し伸べる。

美咲「えっ?」

宇佐美「よかったら手繋ぎませんか?」

その言葉に美咲は一瞬戸惑うが、すぐさま宇佐美を受け入れ手を繋ぎ歩き始める。


美咲「私服姿も素敵ですね」

宇佐美「そうですか?美咲さんもとてもお綺麗ですよ」

その言葉に美咲は嬉しくなる。

手を繋いで歩いていると美咲は周りの目が気になり始める。

もし知り合いがいて見られていたら…そう思い下を向く。

宇佐美「どうかされましたか?」

美咲の異変に気づいた宇佐美が優しく声をかける。

美咲「いえ、大丈夫です。何でもないので気にしないでください」

宇佐美「何だか顔色悪いですよ、少し休憩しませんか?」

そう言ってメリーゴーランド近くにある白いテーブルと椅子に座る。

宇佐美「僕、何か飲み物買って来ますんで、ゆっくり休んでてください」

そう言ってその場を後にする。

メリーゴーランドに目をやると衛との思い出を思い出す。


衛「美咲、はいあーん」

大きな口を開けて、衛がアメリカンドックを美咲の口に運ぶが食べる直前で衛が食べてしまう。

美咲「ちょっと、ずーるーい、衛ばっか食べて、私にも一口食べさせなさいよ」

そんなやりとりをしていると従業員から注意を受ける。

従業員「ちょっとあなた達、乗り物に乗りながらのご飲食は禁止ですよ」

衛「すみません」

美咲「すみません」

美咲と衛が声を揃えて謝る。

乗り終えて出口から出ると衛が急に声を出す。

衛「なんか喉乾かねぇ、よし、今から勝負だ、あの自販機に最初にたどり着いたほうは、後から来た奴のおごりな」

そう言って自販機まで一目散に走って行く。

美咲「ちょっと待ちなさいよ」

衛の後を追いかける美咲。


懐かしい思い出が蘇り自然と微笑む美咲だった。

そしてちょうどその頃飲み物を両手に持った宇佐美が戻って来る。

宇佐美「ご気分は優れましたか?」

そう言って飲み物を美咲の前に置き、美咲の向かい側に座る。

美咲は自販機のほうを見つめて呟く。

美咲「懐かしい」

宇佐美「えっ?」

衛が振り向いて自販機のほうに目をやると高校生のカップルが仲良くジュースを飲んではしゃいでいる。

美咲「昔、大切な人とこの遊園地に遊びに来たんです…でも、その人は遊園地に行った次の日に不慮の事故で還らぬ人になってしまって…時々想うんです、もっとあの時こうしていれば良かったとか、何でもっと素直になれなかったんだろうって、後悔ばかりが残ってて、もうその人とは会って話すことも気持ちを確かめることもできないから…」

そう言って涙を流す。

美咲の心情を察知した宇佐美が静かに口を開く。

宇佐美「じゃあその大切な方は幸せ者ですね」

美咲「えっ?」

宇佐美「亡くなった今でも、美咲さんにずっと想われ続けられていて、羨ましいです」

その言葉に美咲は目を丸くする。

宇佐美「きっと、美咲さんのその方を大切に想う気持ち、届いているはずです」

その言葉に美咲は救われ、心が軽くなる。

宇佐美「あっ、よかったら今度これ乗りませんか?」

パンフレットを見て、急に明るい話を振る。

宇佐美「って、そんな気分じゃないですよね?」

美咲「はい…」

宇佐美「がくっ」

肩を下ろし、落ち込む様子を見せる。

美咲「ふふっ」

宇佐美「って何笑ってるんですかぁ?そこ笑うところじゃないですよー」

美咲「うふふっ」

冗談交じりの会話が続く。


夕暮れ時、蛍の光が流れ始め遊園地の閉園の時間をお知らせする。

ゲートを出ると、二人は、現実に引き戻されたような悲しい現実を突きつけられたような気分になるのだった。

美咲「今日は、本当にありがとうございました。あの、宇佐美さんと過ごせて楽しかったです」

その言葉に宇佐美が微笑み口を開く。

宇佐美「僕も美咲さんと過ごせて楽しかったです。また機会があればご一緒してください」

美咲「はい、それではまた」

軽く頭を下げ二人は離れるのだった。


プルルルルル

宇佐美の携帯の着信音が鳴る。

宇佐美「はい宇佐美です…えぇ、完全に僕のこと信用しきっているようです」

立ち止まり鋭い目つきに変わる。


ガチャ

玄関の扉を開け家の中に美咲が入ると雪が階段から降りてきて立ちはだかる。

美咲「帰ってたんだ…」

雪「話がある…」

雪に言われた通り書斎に向かうと、雪の態度が変わりものすごい剣幕で美咲を睨みつける。

雪「これ、どういうことだよ」

写真を机に置き、大きな声をあげる。

写真に目をやると、それは美咲と宇佐美が二人仲良く手をつないで遊園地内を歩き回る写真だった。

美咲「まさか、私の後ついてきてたの?」

雪に問いかけるが雪はその言葉に反応がない。

美咲「答えてよ、私の後ついてきてたんでしょ?」

少し感情的な態度で雪に言葉をぶつける。

雪は冷静な態度でゆっくりと口をひらく。

雪「もう二度とこの男に関わるな」

そう言って、部屋から出て行こうとする雪を美咲が引き止める。

美咲「待って…私のこと軽蔑してるんでしょ?」

雪「…」

雪からの返答はない。

美咲「誰からも相手にされなくて、哀れな女だって…男の人に愛想振りまいて軽い女だって軽蔑してるんでしょ?」

雪「…」

雪からの返答はない。

美咲「答えてよ」

少し感情的に雪に言葉をぶつける。

雪「もういい加減にしてくれ、今後一切この男に近寄るな」

バタン

部屋を出て行く雪を美咲が追いかける。

美咲「待って、私の話を聞いて、彼と私はそういう関係じゃない、彼は会社を立ち上げたばかりで今一番大変な時期なの。彼には、身寄りとよべる人がいなくて、きっと誰かに心の支えになってほしいと思ってるはず。私だって誰かの役に立ちたい。だから、彼と会うことを認めてほしい。」

その言葉に雪が立ち止まり、美咲を壁に押しつける。

雪「やけにむきになるんだな、じゃあ教えてくれよ、その心の支えとかいうやつを、お前の体を使って証明してみろよ。」

そう言って美咲に口づけをしようとする。

パチン

雪の頬を叩く音が響きわたり、雪を払いのける。

目に涙をためた美咲がその場を後にし、自分の部屋に戻るとドアを背に涙が溢れでる。

美咲「うぅ」

私達いつからこんな関係になってしまったんだろう、昔は楽しく笑い合っていたのに…悲しい感情が押し寄せ涙が溢れでる。

雪「うっ」

悲しそうな表情で、美咲に対するやりきれない気持ちを拳で軽く壁にぶつける。

壁を背に崩れ落ち、涙を流す。

口に手を当て声を押し殺すかのように静かに涙を流す。


美咲に叩かれた衝撃で床に落ちた眼鏡にはひびがはいり、2人の関係に亀裂がはいってしまったこと、2人の関係はもう既に修復不可能であると物語っていた。







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