壊れた 壊れた 壊れた
「もしもし、わたくし株式会社ゾーンカンパニーの美岬っていいます」
とある町工場の夕方、寂れたところに一本の営
業電話がかかってきた。
「今何時だと思ってるんだ、何を言われても話しなんて聞かねぇんだよ」
工場の厳つい男はそう怒鳴り散らしている。
「すみません、夕方ですので、でもお客様が万が一亡くなられた後のためにも、メリットのあるお話なんですけど」
「訳の分からないことを、今死ぬ訳じゃないんだから後で考えるよ。忙しいんだ。失礼な営業だな、クレームいれてやる」
「そうなんですか、分かりました」ガチャ
美岬と名乗る女はその言葉を最後に電話を切った。
「ふざけた奴だ。何が保険だ、只の勧誘に命掛けられるかって」
男はぼやきながら電話の横に置いてあったビールケースを蹴り飛ばした。
「あっやっぱりここだ!」
彼が若い女の声がして振り向くと。
「あれ、忙しいんじゃなかったんですか」
「うーん、まぁいっか。早く仕事終わらして温泉行こう」
ツインテールの小柄な少女がニンマリとして工場の中に入ってきた。
「何だてめえ、さっきの電話の女か。来るなって言ったろうが、警察呼ぶぞ」
少女はそんな言葉が聞こえないかのように工場の中に入ってくる。
「私、嘘は大嫌い。まぁでもいつ人が死ぬかは、分からないですものね」
大きな瞳で男の顔をじっと見つめながら近づく美岬。
「加入の手続きにきましたぁ」
少女は初めて男に喜の感情を向けた。そしてスタンガンと注射器を手にしてゆっくり語りかけた。
「ビリビリします?チクッとにします?そ・れ・と・も、グサッと一発いっちゃいます?」
「お仕事おーわり!」
スマートフォンをポケットから取り出しその日の成果を報告する。
「今終わりました。あ~でもちょっと傷が多くなっちゃいました。はい、それじゃお疲れ様でーす」
赤く汚れた顔を眠そうにこすりながら、美岬はその場を後にした。
今日は学校に来るのがいつも以上に嫌だった。なぜなら、昨日まで隣にいた奴は昨夜の人殺しだ。
「おはよー」
意識しない方が無理というものである。荷物を置いて席に座る彼女をつい目線で追ってしまう。
「どうしたのみのる君、何か悪いものでも見た?」
「いや、なんでもない」
その日1日の授業なんて頭に入らなかった。何度も考えないようにしたが、隣の彼女が何か動作をするたびに赤く顔を染めた彼女を思い出してしまう。
その日の帰り道で彼女は俺の前に現れた。彼女に昨日の真相を聞く期待以上の恐怖を味わっていた。苦い唾液をゴクリと飲み込んで尋ねた。
「その、昨日どこにいた」
美岬はいつも見せるにっこりとした笑顔で俺に近づいてきた。
「私ね。嘘が分かるの。本当よ、何かまでは分からないけど君の答えがyesなのか、noなのか」
俺の前にさわやかな笑顔をむける。
「アルバイトだよ、バイト帰り」
明らかに昨日の美岬の姿、現場の異常性はそんな嘘を払いのける。
「嘘だ、お前が殺したんだろ。見たよ全部、血まみれな顔して笑いながらだれかに電話してるのを」
「見られた以上はしょうがないや」
彼女の両手が俺の首に触れた。
そうすると突然後ろから声が聞こえた。
「おい、そいつが佐藤みのるか」
そこには以前に自分を助けた黒い女が立っていた。自分は再び化け者に助けられたのである。




