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直接的に回りくどく

作者: 8D

 僕は、回りくどいものが嫌いである。

 それも人間関係から発生する回りくどさが特に嫌いである。


 気遣いという名のおためごかしで、歪曲的表現を用いる事には嫌悪感を覚える。

 言いたい事があれば言えばいい。

 その気遣いというものでどれだけ時間の浪費が発生するかわからない。


 悪い部分があればはっきりと言ってやった方がその人間にとっては欠点を直すきっかけになる。

裏でこそこそと陰口を叩くくらいならば悪口を直接言ってやればそれを気にして相手が改めるかもしれない。


 相手が友人や上司だったらどうすればいいと?

 本音でぶつかって離れていくような友人なら離れても惜しくは無いし、立場が気になるならそれ以上の立場になってから言え。


 少なくとも僕は、その態度で様々なしがらみができてしまってもそのスタンスを貫き通すだろう。


 だから僕は、ここ最近の彼女の僕に対する接し方が不快に思えてならなかった。


「先輩。隣の席、空いてますか?」


 僕が学食で食事をしていると、彼女は僕にうかがう。


「見ればわかるだろう。好きに座ればいい」

「ありがとうございます」


 礼を言うと、彼女は椅子を少しだけ僕の方へずらして座る。

 彼女が僕ととても近い位置に来る。

 彼女の肩が、僕の肩とぎりぎり触れ合うかどうかという距離だ。


「先輩もカレーなんですね。私もなんですよ」


 そう言って、笑顔で言う彼女。


「最近、いっつも同じもの食べてますよね」


 それはわざとだろう?

 と僕は心の中で呟いた。


 ここ最近の彼女は、時間があれば僕の所に来る。

 そして決まって、過剰なまでに僕の近くに寄ってくる。

 食事もまた僕の食べている物を盗み見て、同じ物を注文して何食わぬ顔で偶然を装うのだ。


 彼女がとるこれらの行為にある意図が介在している事は明白だった。


 人間にはパーソナルスペースというものがある。

その広さには個人差はあれど自分との距離が近ければ近いほど親近感を覚えるという。

 食事を同じ物にするのは、相手と同じ行動を取る事で共感を誘発する行為の応用だと思われる。


 それらは心理学において、相手の好意を上げるためのものだった。

 彼女は他にもいろいろとそういった心理学的に好意を上げる方法を僕に行なっている。


 対面に座らず隣に座る事、相手の左側に座る事も相手の好感度をあげる心理テクニックだ。


 最近の彼女は、こうして心理学を応用した回りくどいモーションをかけてくる。


 だから、彼女が僕に好意を持っている事は明らかだった。

 彼女は僕と親しくなりたいのだろう。

 しかし、回りくどい事の嫌いな僕は、彼女の好意に対して嫌悪を募らせている。


 僕はその小賢しい思惑に乗りたくないため、あまり彼女を相手にしないようにしていた。


「そうだね」


 だから僕は、彼女に素っ気無い態度をとる。


「あの先輩。今度、お昼ご飯食べに行きましょうよ。カレーとオムライス、どっちがいいですか?」


 彼女は不躾にそんな事を提案する。


 カレーとオムライス。

 どちらも僕の好物だ。


 これはダブルバインド。

 二つの選択肢を選ばせる事で、自分の望むように相手を操る心理学を応用したテクニックだ。


 彼女は二つの選択肢を出したが、ここで大事なのはこの選択肢ではない。

 彼女の得たい結果は、カレーとオムライスどちらを食べたいかという事ではない。

 僕と昼食を一緒に食べに行くという部分だ。


 先ほどの問いを訊けばわかる通り、二つの質問以前にこの話の流れでは一緒に昼食へ行く事、つまりデートが確定してしまっている。

 そしてここで僕が選択肢に答えてしまうと、否応なくデートを了承した事になってしまうのだ。 


「まぁ、考えとくよ」

「……そうですか」


 答えると、彼女はそれ以上何も言わず僕の隣で黙々とカレーを食べる。

 僕も同じようにカレーを食べた。


 僕は心理学についてもよく知っている。

 確か、その話を彼女にもしたはずだ。

 そして、回りくどい事が嫌いだ、とも……。


 なのに、どうして彼女はこんな事を続けるのだろうか?

 無駄だとわかっているはずなのに。


 それともその話を聞き流していたのだろうか?

 それはショックだ。


 僕は彼女の事が嫌いじゃなかった。

 それなりに親しくもしていた。

 でも、彼女がこんな回りくどい事をし始めて、関係がギクシャクし始めた。


 彼女がこんな事をしなければ、僕は彼女ともっと仲良くなれたと思うのに……。

 愚かしい事だ。


 カレーを食べ終える。

 食器の乗ったトレーを返却口へ持っていこうとする。


「先輩」


 そんな時、彼女が僕を呼び止めた。


「何?」

「先輩、心理学も勉強したんですよね?」

「そうだけど」


 何をいまさら……。


 そう思っていると、彼女はさらに続ける。


「あと、先輩は回りくどい事も嫌いですよね?」

「そうだよ」


 そっちも憶えていたのか。

 じゃあ、どうしてこんな回りくどい事をするんだろう?


 実は、僕の事が嫌いで遠まわしにそれを伝えようとしたのかな?


「そうだけど。それが?」

「私はどちらも知っていて、あえてそうしてるんです。あ、私が先輩の事を嫌いだからって意味じゃないですよ?」


 じゃあ、どういう意味?


 彼女は、僕が回りくどいものを嫌っている事を知っていた。

 心理学に造詣がある事も知っている。

 なのに、彼女は回りくどい方法で僕と親しくなろうとした。

 そして、僕を嫌っているわけじゃない。


 心理学の事を知っている相手に、心理学で好意を伝えているという事はつまり……。


「あっ……」


 僕は気付いた。


 そうか。

 彼女のこれまでの行為は、これ以上ないくらい直接的な告白だったのか。


 心理学で好意を伝える事で、あなたの事が好きですと直接伝えていたのだ。

 心理学を知っている相手に心理学で好意を伝えれば、それはとても直接的な行為の伝達法だ。


「直接言えばいいのに」

「だって、恥ずかしいじゃないですか。……ニブチン」


 彼女はそう言って僕をそしった。

 その顔に、はにかんだ照れ笑いを浮かべて。

 作中に出てくる心理学は、著者がネットで調べた程度のものです。

 間違いなどがあるかもしれませんので、おかしな点がありましたら教えてくださるとうれしいです。

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