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#17『断章/どこかの誰かの理想郷≠ワタシの理想郷』

 ――彼女は、紛れもなく私だけの親友だった。

 独りぼっちになってしまった私に手を差し伸べてくれたのは、たった一人の少女だった。彼女は、私にとって、友達であり、後に親友となり、また、私の中では、神様のような神々しさを保っていた。

 私が遊ぶときは、いつも彼女がいた。

 どんな友達と遊ぶ時も、いつも彼女は傍にいて、そのお陰で私は、他人の輪へと入っていけた。

 元々、他人との意思疎通が苦手だった私の、いわば『介護』をしてくれたのが、彼女だったのだ。

 そりゃあ、もちろん――十数年も介護されていれば、彼女なしの生活なんてまず考えられなくなる。それくらいに、私は彼女に依存していた。それに、きっと彼女も私に依存しているのだ、と強い確信を持っていた。

 単純接触効果って知ってる? 

初めのうちは無関心だったものも、何度も見たり触れたりしているうちに好印象を抱いてしまうっていう現象のことなんだけど。

振り返ってみれば、騙されちゃったのかな、って考えて憂鬱になる。単純接触効果っていうのは、自分の中にある潜在記憶が印象評価を誤ることで生じてしまうらしい。

きっと、騙されてしまったのだ。もしくは、私がカモだったのか。

――私の親友は、どうやら恋をして、変わってしまったらしい。

彼女と最後に笑顔を交わしたのはいつだろう。

彼女と最後に語り合えたのはいつだろう。

彼女と最後に二人きりになれたのはいつだろう。

 私の彼女のログは、たった一つの出来事をもって、それ以降に記されることはなかった。

 水瀬おきな。私の幼馴染。私が独りぼっちになる前のお話に出てくるちっぽけな王子様。――彼が、私と彼女の物語に飛び入り参加してきたから、私と彼女の距離は遠くなっていった。そして、今も遠くなり続けている。

 嫌だ。嫌だ。一人にしないで。――孤独を恐れる気持ちが渦巻いている。

 だが、それだけではない。

 水瀬おきなという、昔々、私が初めて恋をした王子様を奪われたことによる、今まで感じたことのない、胸のざわつきが孤独への恐怖を上回ろうとしていた。

 そして、そのざわつきは、徐々に刃物のような鋭さをもって、彼女に襲い掛かろうとしていた。どうやら、私が自制できるものではなくなってしまったらしい。

 いつか、きっと私が冷静になったときに、この胸のざわつきの正体を突き止められたのならば、また、私は彼女と仲良くなれるのかな。

 王子様だった少年に恋をすることを許されるのかな。

 今の私には、その答えが導き出せない。

 導き出してくれる存在は、目の前の文藝部室にいる。



――彼女は、紛れもなく私だけの神様だった。



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