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008.病魔




◇◇◇



「・・・・・彼女がミランダだ。」



 厳格な宮殿に囲われた中庭。


そこは、様々な植物が生い茂るそこは市街の中心にある宮殿内とは思えぬほどに、緑豊かな植物園のようであった。しかしながら様々な木々と花達が咲き誇りながらも、全てが計算しつくされた設計を感じ、宮廷の庭師の腕の高さを感じられる。


 そして、その中庭の中心には、ぽつりと佇む離宮が存在した。それは陛下の寵愛する正妃ミランダ・ミディス・ロワイヤルがために作られた箱庭とも言えよう。正妃ミランダはその中庭と離宮を大層好んでいた。


そして彼女は今、そこで療養している。



 離宮の中。陛下から直々に案内されたその離宮で対面した正妃は、静かに眠り浅い呼吸を繰り返しており、少し痩せすぎているようだが、こちらから見ればただ眠っているだけのようにも見える。


眠っているために瞳の色は見えないがその色は透き通るようなスカイブルーであるという。艶やかな銀髪を散らし、ほっそりとした身体を柔らかな寝台に任せているその姿は、この国の母とは言えぬほどに弱々しい印象を受けた。


医者ではないのでわからないが、不知の病というので、ガリガリにやせ細った病人を想像していたが、なんということもなく見た感じではそうひどい重症とは見受けられなかった。



「とにかくミランダには時間がないと主治医にも言われている。・・・もはやどのような方法でも良い。ミランダを助けてくれ」


「ハッ。若輩者ながら、力の限りを尽くします」


辛うじて、返事はした。


が、内心では自分の喉元に剣を突き立てられているようにも感じた。いや、実際に突き立てられていることと同じ様なものだが。


一体どうしろというのだ。病名すらわからず、そして聖魔法すら掴みきれていないこの状況。


陛下は出て行った。そして父も謁見の間からこちらに来る前に別室に移動している。残されたのは主治医とその助手と私のみ。



___どう考えても私は、やるしかない状況に追い込まれたらしかった。



「宮廷医師長を任されておりますディオロスと申しまする。どうかディオロスと」


壁際に立つ宮廷医師のバッチをつけた老紳士に声をかけると、彼は眼鏡を中指で押し上げながら、なんとも苦虫を噛み潰したかのような顔で答えてくれた。


その表情からしてこちらの状況に同情していることが読み取れてしまう。が、そんなもの私としては虫も食わない感情でしなかった。


しかし目の前の宮廷医師ディオロスは私よりも医術に関しては上回るであろうと予測されるので、せいぜい私の今後の安寧のためにも身を楜にして働いてもらう必要がある。



「自己紹介ありがとうございます。ではディオロス様、現状を把握したいので、カルテなどはありますでしょうか?」


「ええ、こちらに」


そう言って、ディオロスは横にいた助手の30代半ばほどの男性から紙を受け取りこちらに渡した。それを受け取り、私は即座に流し読みした。正妃ミランダの状況は以下の通りのようであった。



①時折苦しみだしドス黒い魔力を発する

②体の筋肉が硬直し動かない

③すでに全身が動かなくなりあと一ヶ月ほどで呼吸器官に到達するだろうと予測される


①からして魔力関係の病魔である可能性がとりあえずあげられる。正妃ミランダは魔力を有しているため自身から発せられていると予測された。もしそうなら私には病名を当てることさえ不可能であろう。


しかしながら②と③の症状には覚えがあった。他の病魔の可能性も捨てきれないが、体の筋肉が硬直し動かない病気が前世でもあった。


すべての条件を加味して考えると、どちらにしても絶望的だと言えた。


しかしながら私が施す施術は医療ではない。


魔法による癒やしなのだ。とにかく聖魔法しか頼れるものがないため、これを早くコントロールするほかないという結論に至った。


「ディオロス様から見てこの症状は何と見ていますか?」


隣にいる白髪の紳士を見上げ、問う。ディオロス家と言えば、歴史に名高い医術に長けた貴族であり、代々国家に使える由緒ある貴族でもある。


その彼はこの症状をどう見ているか、意見が欲しかった。


そして彼は、至極真面目な顔をして、答えようとしてーーーー




「うちのババアは黒魔術に罹っているんだとよ」


扉の方から、違う声が割り込んできた。すぐさま目を移すと、金の髪をかきあげ、獰猛に笑う男が扉に背を預けて腕を組みながらこちらを見据えていた。


「で、殿下!」


「よお、ディオロス。今日もわざわざありがとうな。」


ディオロスがすぐさま頭を下げ、それに対してヒラリと手を振る。長い足を優美に動かして、こちらに近づいてくるその男はとても顔が整っていた。


そしてこちらに近づき、こちらを見てニヤリと笑いその男は私の顎を掴んだ。


「んで。うちの藁をも掴むほどの救世主は、このチビか?」


ゆったりとこちらに顔を近づけてそう言う男。がっつりと瞳と瞳が交差する。


とても自信がある、目だ。


この男はとても自信と自負と自覚があった。自分の権力と持っているものを理解し、そしてそれを大きく振り回すほどの自己顕示欲も持ち合わせている。そしてそういう男を私は何度も見てきた。


ーーーー前世でも今世でも。



「ええ、殿下。以後お見知り置きを」


そして、そういう類の男には一定の距離感が大事であると前世でも今世でも、理解している。




ーーーーーーーしていた、はずだった。




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