006.聖魔法
半年ほど前、私は秘匿に王城に招かれていた。聖魔法という適正魔法が発覚した直後のことであった。その時は、今後のことを鑑みても王城に招かれることに異存はなかった。
正直、私にとって聖魔法の所持という肩書はメリットが少々あるだけでとてつもなく煩わしい肩書としか言いようがなかった。
そもそも魔法師の操る魔法とはなんなのか。
魔法師が瞬時に炎を具現化させる様を見たことがあるが、一種の錬金術としか言いようがなかった。つまりその場で元素を調合していると考えられる。
しかしながら世界の文化レベルとして元素を理解しているものは皆無と言っていい。ではいったいどういう構造を持ってして「魔法」という大別化された力を操っているのか?
そのことに関して研究する者もいるが、未だ解明されておらず、皆わからないけれど、ただひたすらに便利というだけの理由でその力に頼っているように見えた。
私としては完全に構造を理解したうえで安全と判断した後に、適正な方法で使用したいと考えているほどに、得体のしれない。
そういう意味でも魔法師はあまり成りたくない職業でもあった。万が一の可能性として、身体に悪影響を及ぼす可能性も否定できないのだ。
しかしながら魔法師はその希少性と有用性から見ても高給取りには間違いないので、アインザッシュ侯爵家没落に巻き込まれるよりは、なっても良いかと悩む程度には忌避はしていなかった。
____問題なのは成れるのが『聖』魔法師であったということ。
つまり有無を言わせず国の管轄下に死ぬまで置かれる。そしてもしかすると神殿などという神を祀る宗教団体に利用されかねない。
欠陥を癒やすという力を神の見技として祭りあげられるのだ。
歴代の聖魔法師は宗教に祭りあげられ、『神の巫女』という二つ名を与えられる聖魔法師もいたというから恐ろしい。
私はもともと神などは人間が産みだした偶像としか思っておらず、そして神をおごる存在に現世への転生をさせられた。『神』などという存在が関連する案件自体、御免被りたい。
だがよくよく考えてみれば、聖魔法師は欠陥を修復できる力を持っており、これは前世の医者に近いものであると予測できる。
つまり、お金という対価を払ってもらい、癒やすというプロセスを確立させれば私は人財産儲けることができ、そして将来も安泰するのではないかと考えられるのだ。
対人関係のある仕事は前世から鑑みて少々御免被りたいが、大金が得られるのであれば我慢もしようと思う。
また前世は戦乱であったが、今の世界では闘いがなく後方支援にまわる必要もない。魔物が存在し、先日父が派遣されるほどの凶悪な魔物も時たまいるが、ギルドという傭兵会社が多数存在するため私には概ね関係ないことと言えた。
つまり聖魔法師として兵を癒やす必要もない。だから、欠陥を癒やすという商品をもってして起業すればよい。私もハッピー、皆もハッピーだ。つまり聖魔法師として国に隔離される前に、起業したい。
しかしながら、私は11歳の少女。さらにまだ聖魔法師ではない。魔法師としてのノウハウがわからない今、聖の魔法を所持する人間でしかないのだ。
そして何より私は、アインザッシュ侯爵家の者である。つまり上級貴族にして陛下の覚えもめでたいアインザッシュ侯爵が娘。そこに併せて、アインザッシュ侯爵家は正義の貴族にして国家の盾。その娘が聖魔法所持者。
つまりだ。絶対に父に利用されるとしか思えなかった。
奴は私を手放さないだろう。だからこそ、聖魔法師という肩書は、生産性のある人間になれる可能性を秘めつつも、アインザッシュ侯爵家の力をさらに増長させるダガーともなりうるというとてつもなく面倒くさい代物であった。
___そして私は『聖』魔法が与えられていた事に対して、自称神の思惑が感じ、ひどくひどく苛立ちと殺意を覚えたのである。
まあ兎にも角にも、私の力では今のところどうしようもないことであった。
今回、王城に呼び出されたのだって父付随のただの顔合わせ程度であろう。
精々魔法師として力を発揮するまでは聖魔法を隠匿とし、アインザッシュ侯爵家庇護の元、魔法学校への即時入学を命じられる程度であろう。今後の指標はさっさと根城に帰ってからゆっくり考えようではないか。
その時は思っていた。