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005.婚約




____と、思っていたのだがこれはいったいどういうことであろうか。


「よって、アリシアーナ・ル・アインザッシュを第一王子、カイマン・ミディス・ロワイヤルの婚約者とする!」


 響き渡る声には畏怖と偉大さを感ぜられるように、少しばかり力強く、そして少しばかり瞳孔周辺を力ませ、そして少しとは言えないほどの魔力を大量に放出することで、王が王たる威厳が保たれているように私には見えた。


 周りを見渡すと実直な国柄を反映しているのか、思ったよりは華美ではないが、それでも十分に金がかかっていると言わざるを得ないほどに荘厳な城内でも、最も国力をこれでもかと表すかのような圧巻とも言える謁見の間は、この国随一の兵が一糸乱れぬ姿勢で、この国の支配者を守護している。


国内では神が如く祭りあげられている現世の王は、民からしてみれば戦いもなく住みやすく飢えない生活を提供してくれる「賢王」として人気があった。だがしかし所詮、神が如く国のトップとして祭り上げられた為政者、といっても私と同じ人間であることは間違いない。


まあ、言及するとすればある程度の適当な理由をつければ私などはすぐに消せてしまうという難点があるが。



___名を、ナーゼル・ミディス・ロワイヤル。弱冠18歳で即位され、様々な政の闘いを経て、この国に平穏をもたらしている現在齢45歳のミディス皇国の王である。


 失礼ながら45歳という歳から少々くたびれている王を想像していたが、こちらから伺う容姿は、その歳に似合ないほど陛下は若々しく健康的であった。


 そしてロワイヤル王家に受け継がれるという金色の髪を短く刈り上げ、燃えるような赤色の双眼を爛々と光らせるその姿は、為政者として少々幼い印象を受ける。実際に幼いからこそ我が父が野放しにされているのかもしれないが、実情は現段階で把握できない。



「陛下の仰せのままに。」


そして返答を返したのは、声変わりも終わったのであろう響くような低い声であった。声だけで数々の淑女を虜にするという噂もあるほどに、なかなか耳に擦りつくような低音であるとは認められる。



声を発したのは、カイマン・ミディス・ロワイヤル。ミディス皇国第一王子にして、次期国王筆頭第一位。正妃であるミランダ・ミディス・ロワイヤルより産まれし、誰もが賞賛するほど、否のつきどころのない王子である。


その見目は大層整っており、正妃と陛下の良い所をまるで自ら選択したのではないか、と言わしめるほどに精巧。さらに頭脳に至っては帝王学が最も得意とされ、心技体全てにおいて天才と言わしめる。


齢17歳、国の羨望や期待を一手に受ける若き王子。そんな彼には、それはもう様々な縁談が本当に小山ができるほど舞い込んでいたはず。


選び放題とはこのことだと思った記憶がある。ミディス皇国は数ある国々でも先進国として名高いため、国内だけでなく、他国からの縁談もあったはずだ。


そのような御人がなぜ、私と婚約させられるという異常事態が発生したのか。未来の正妃など勘弁被る以前に、男と婚約など、特に第一王子など、吐き気がしてたまらない。



正妃など、次代の王を産むだけの存在であり、つまりは・・・・・


冷静に考えれば私は前世では男性として産まれ、子孫繁栄のため種を植え付ける側にあった。そして現世では女性として生まれた。そうであるならば女性として子孫繁栄のためにも子を産まねばならないし、そうしなければ私が人間社会の中で生まれた意味がなくなるとも考えられる。

 

 しかしながら、私は前世の記憶を辿りすぎた。


・・・そう、前世の延長線上として現世を生きてしまっていたのだ。前世の常識をベースとして現世の常識を受け入れ、前世の経験をベースとして現世の経験を受け入れている。


そんな私に男性を捨てて女性として性を全うすることはできるだろうか。そもそも女性として男性に対して子孫繁栄のための感情、いわゆる愛という非論理的な感情を抱けるとも思えない。



つまりはっきり言うと、子など産みたくない。


精神的に言っても気持ちが悪い。できれば私一人で生産性のある人間となり自分自身は自分で守り、誰にも迷惑をかけず、そして誰も守らず、私の好きなように安全に楽に生きていきたいだけなのだ。


それをぶち壊し、このようなめんどくさい肩書と問題をしょいこんだ王子と陛下が目の前にいるのは、簡単に言うと私の身分と、そして私の持つ力が原因であった。


アインザッシュ侯爵は国王の右腕。


侯爵家という王家の縁戚が賜わる公爵家の次に力を持つ貴族家格にして、将軍という国家の盾の指揮者。よってアインザッシュ侯爵の地位はミディス皇国でも非常に高く、彼をやすやすと見下ろせる者は片手で収まると言っていいだろう。


そんな彼には齢11歳の娘が一人いた。


名をアリシアーナ・ル・アインザッシュ。アリシアーナこと私は100人にひとりという魔法師になれる資格、つまり魔力を有していた。


その魔力量は約2万。国随一の魔法師は20万、平均が1万であるため特別魔力量が多いというわけではなく平均より少し多い程度。




しかしながら、私が特異とされたのは魔力量の話ではない。

それは魔力適正の方にあった。


___適正属性は『聖』。


光属性の上位属性にして、現在見つかっている上位属性の中でも、適正属性として現れるのが何百年に一度というほどに希少価値のある属性である。


そんな聖を司る聖魔法師は、攻撃魔法が使えない。しかしながら回復魔法においては右に出る属性はなかった。


魔力量に応じて、あらゆる大病、傷を癒やすことが可能とされ、心の闇すら取り払うと言われる聖魔法師は国家の宝とされる。


ミディス皇国に過去いた聖魔法師は約250年前のこと。そして歴史から振り返るに、数ある偉業を成し遂げてきた聖魔法師の痕跡は今でも語り継がれる。


____そんな魔法師が発見された。それは即座に陛下の耳に入り、緘口令が敷かれることとなる。


聖魔法師なぞが世に無闇に放り出された日には病、傷を抱えた患者が押し寄せるに決まっているからだ。そして聖魔法師を奪い合う闘いに発展する可能性、さらには無闇に聖魔法師を使い尽くしボロボロにされる可能性があるためであり、それは国家としても聖魔法師から得られる利を最大限得られないことにもつながる。


よって聖魔法師は秘匿に扱う必要があった。少なくとも周辺警備を行い、王によって聖魔法師として公言化されるその時までは。






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