002.死後
◇◇◇
また、いつもの朝が来たと思った。
が、違ったようだった。
(・・・・・いい天気だ・・・・青空ではないか・・・・・青、空?、っ!)
夢から若干目覚めた微睡み(まどろみ)の世界の中で、最も初めに視界を捉えたのは青空であった。いつもであるならば、見慣れた薄汚れ黄ばんだ天井が見えたはずである。
また現在特殊任務中ではないため、外での起床は完全に異常。
青空を視界に入れた後、数秒を持ってして常に手元にあるライフルを装備。警戒態勢のまま周囲を確認する。
______そこは草原だった。
遮蔽物ひとつないどこまでも広がる草原。そのど真ん中で私はライフル片手に警戒態勢をとっていた。
・・・・・いったいこれはどういうことであろうか?
現状を整理しよう。
私は、現在参謀本部にて新しい計画のための費用を経理のものからむしり取るという仕事についていた。そのためここ数週間は本部にある自室での生活を送っていた。
そして昨日もその仕事をし、そしていつもどおり就寝した。はっきりと覚えているのだ。
ではなぜ、私はこのような草原にいる?
①参謀本部が敵国に壊滅され私が捉えられた
→否。私は、ただの中佐であり捉えられるほどの価値はない。また参謀本部の本拠地は市街の中である。寝て起きたら全て終わっていたなどということはありえない。
②私自身が記憶喪失。昨日の記憶は遠の昔の記憶であり、その間の記憶ごと消えた。
→ありえる。記憶喪失ならばこの場まで移動するということが可能。
③夢
→ありえる。脳が生み出した世界ならばこのような草原にいる可能性は十分にある。
④死後の世界
→否。死後の世界などない。そもそも人間は身体が腐った時点で意識を保てない。脳が生み出した意識が死後の世界に行くなどありえはしない。そもそも死後の世界などは宗教が定めた幻想であるからして・・・・
と、思考を回転させていた時であった。
「____!!!!!」
刹那、閃光。目が潰されるかと思うほどの光量が襲った。
敵の閃光攻撃と断定。即座にその場を離脱。光が収まるまで、防御態勢をとる。
しばらく待機し、そろそろ周囲を確認しようとした次の瞬間。
____誰かが私の肩を叩いた!
「ぐふぅ!!」
即座に兵学校にて習った体術による敵拘束。マウントを保持。ライフルを突きつけ、敵確認。周囲、他の敵兵なし。先程の閃光も終わっていた。
「・・・・・何者か、貴様」
周囲を確認した後、相手も確認。
はっきり言うと見たことのない男であった。黒髪黒目、中背中肉。青の質のいいシャツに見たことのないに紺色の硬そうなパンツ。首には見たことのない素材の白の機械がぶら下がっている。
戦場にいてはおかしいほどの軽装と、鍛えられていない肉体。しかしながら見たところ15歳から20歳程度と予測でき、徴兵されていないとは考えられない。いや、我が国のものではない可能性が大。
このような顔の浅い人種は東の猿どもにどこか似ている。しかしながら、東の猿にしては背が高い。やつらはオナゴよりも低い背丈のものばかりなのだが・・・・
そのような得体のしれない人物を数秒観察していると、マウントを取られた相手がそれはそれは赤子のような無邪気なゾッとするような笑顔で笑いかけてきた た。
「やあやあ、突然のマウントだなんてほんとうに物騒なものだ。ーーーーーようこそ、君が信じていない死後の世界へ!」
男はそう言って、いつの間にか私の背後に立ち、リンゴをむさぼり食った。
私は、久々に恐怖という感情を抱いた。