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第5話 大和サラ(2)

……あれ? 痛くない。

それになんだか暖かくて気持ちいい。

まるで誰かに抱きしめられているよう。

死ぬってこういうことなのかな?

だったら結構悪くないかも。


「おい! 大丈夫かタケル!」


「タケル様!」


むっ、なんかさっきまでお兄ちゃんを取り合ってた女の人の声が後ろから聞こえる。

せっかくいい気分で天国に行こうとしてるのに、不愉快な声を聞かせないでよ!


「い、てて……おいサラ、大丈夫か?」


今度は前からお兄ちゃんの声。

でも、なんだか苦しそう。

あれ?

もしかして私、死んでない?


「お兄……ちゃん?」


ぎゅっと固く瞑っていた瞼をゆっくり開く。

だけどすぐ目の前の視界を何かが遮っていてほとんど何も見えない。

それがお兄ちゃんの胸だと気付くまでにしばらく時間がかかった。

私を抱きしめていたのはお兄ちゃんだったんだ。


「怪我は無いか?」


お兄ちゃんの優しい声。


「う、うん……」


私はどこも痛めてない。

あぁそっか、お兄ちゃんが身を呈して私を助けてくれたんだね。

私の代わりに身体をテーブルに打ち付け、そのまま私を抱きかかえて床に背中から倒れ込んだんだ。


「そうか、良かった」


やばっ……ドキドキが止まんない。

ち、違うわよっ!

きっとこれはもう少しで死ぬかもしれないっていう危険な目にあったからであって、別にお兄ちゃんに抱きしめられてるからとかそんなんじゃ――


「……ところで、いい加減どいてくれないか」


「――――っ!」


そ、そうよ!

いつまでくっついてるのよ私!


慌てて立ち上がる。

その時、何かが私の脚を伝って下に落ちた。


「あっ」


さっきまで履いてたはずのスカートがお兄ちゃんの脚に引っかかったまま視線の先にある。

ということは――


「イテテ……気を付けろよな、サラ――」


頭を押さえながら上半身を起こすお兄ちゃん。

その目の前には私の露わになったパンツ……


「えっ?」


「キ……ィィイヤーー!!」


「ぶほぁ!?」


頭が真っ白になった私の膝が、キレイにお兄ちゃんの顔面にめり込んだ。

あ、あんな至近距離でパンツを見られるなんてぇ……!


「な、何すんだ!?」


「い、一度ならず二度までも妹のパンツをガン見するなんて! バカ! エッチ! 変態!」


「だ、だからわざとじゃねーだろ! 大体、助けてやったのにシャイニング・ウィザードはなくね!?」


「うるさいうるさいうるさ~い! 元はと言えばお兄ちゃんが放っぽり出した鞄が原因じゃない!」


「いや、まあ……それはそうだけど……」


顔が熱い。

なんで私こんなに興奮してるんだろ。

別に兄弟なんだし、わざとじゃないってことも分かってるんだし、こんなに怒ることでもないのかも。


「まぁ! 大丈夫ですかタケル様?」


鼻を押さえるお兄ちゃんに、甲斐甲斐しく寄り添う金髪美女。


「だ、大丈夫だから。そんなにくっつかないでくれ!」


何よ、お兄ちゃんもデレデレしちゃって!

またムカついてきたわ。


「タケル様も下着がご覧になりたいのなら、わたくしに仰っていただければいつでも……」


わ~!

何してんのよこの女!?


「いい加減にしなさい!」


金髪美女がスカートの端をくいっと持ち上げたところで、私の我慢はとうとう限界に達した。


「あんっ! 何をなさいますの?」


「るっさい! どこの誰だか知らないけど、家の中でイチャイチャしないでよね! お兄ちゃんも、お母さんとお父さんがいないからって女を連れ込むなんて不潔よっ! それも2人も!」


「ま、待て! 連れ込んだんじゃねーぞ。この2人はこれからしばらく一緒に暮らすんだよ」


な、何ですってぇ!?

それって、ど、同棲ってやつじゃない!

しかも2人と!?


「いや、何考えてるか手に取るように分かるけど、この2人は親戚らしいぞ」


はぁ!?

親戚って、そんなの初耳なんですけど!?


「まあ、親戚というよりも、わたくし達はもう夫婦も同然ですけどね」


金髪美女がまたお兄ちゃんにしな垂れかかろうとしている。

ホント、グイグイ行くなこの人。


「だぁ~かぁ~らっ! お兄ちゃんから離れなさい!」


何が何だか、未だに分からないけど、とにかくこの人がお兄ちゃんとベタベタするのは見ていて腹が立つ。

お兄ちゃんも口では拒絶しておきながら、実際のところは喜んでるんじゃないの!?


「あらあら、サラ様はタケル様とわたくしの仲に嫉妬してらっしゃいますの?」


無理やり2人を引きはがそうとする私に、金髪美女がとんでもないことを言ってきた。


「しっ……ししし嫉妬って何デスカ!?」


「見れば分かりますわ。貴方もタケル様のことを――」


「うっ、うわあぁぁ!!」


「へぶらっ!?」


金髪美女の言葉を遮るように、私の渾身の右ストレートがお兄ちゃんの顔面を打ち抜く。

そんなんじゃない!

そんなんじゃないんだからぁ!


――――


「いただきま~す……」


それからしばらくして、4人でテーブルを囲んでの夕食になった。

お兄ちゃんのためにいっぱいコロッケを買い込んでいたおかげで突然4人前を作るハメになっても何とかなったけど、なんだか釈然としない気持ちだ。


あの後すぐにお母さんに電話してみたけど、どうも要領を得ない話だった。

ただ、この2人としばらく暮らさなければいけないということは間違いないらしい。

本当は今すぐ帰って来てほしかったけど、お父さんがカジノで爆勝ちしちゃったらしくて、そのまま2人で世界中を旅して回るなんて浮かれた声で話すお母さんに、そんなこと言えるはずもなくて……


「なぁなぁ、これって何て食い物だ?」


私の向かい側に座った赤毛の女の子(ベルさんっていうらしい。しかもお兄ちゃんと同い年だってことにびっくり)が、割り箸で私の作ったコロッケをつつきながら訊いてきた。


「コロッケよ。っていうか、お行儀悪いから止めて」


「このような料理、わたくし初めて見ましたわ」


ベルさんに続いて金髪美女(ミカエラさんだって!)も珍しそうにコロッケを眺めていた。

名前といい見た目といい、日本人じゃないとは思ってたけど、日本で育ったわけじゃないのかも。


「へ~、コロッケを見たことがないなんて変わってるわね」


ベルさんの隣に座る(っていうか私が座らせた)ミカエラさんに眼も合わさず、私はそっけなく答えた。

一応年上なんだから敬語使わないといけないのかもしれないけど、そんな気分じゃないし、親戚ってことなら別にいいよね。

私の向かい側にベルさん、その隣にミカエラさんということは、お兄ちゃんは私の隣だ。

いつもは向かい合わせに座るんだけど、お兄ちゃんの隣をこの2人が取り合うもんだから私がお兄ちゃんの隣に座ったの。

ホント、それだけの理由なんだから!


ミカエラさんがお兄ちゃんと向かい合わせになることは気に入らないけど、私の向かい側に座られるのも腹立つからこういう配置にした。

で、隣に座るお兄ちゃんはというと、なんだかバツが悪そうに小さくなってご飯を黙々と食べている。

せっかく腕によりをかけてお兄ちゃんの好物を作ったんだから、何か感想を言ってくれてもいいのに……


「うっ、美味い!!」


え?


「本当。これは美味ですわぁ」


ええ!?


「サラ、お前料理上手いんだな!」


「このような美味しいお料理、わたくしも初めて食べましたわ」


いや、そんな……そりゃ、少しは料理の腕には自信あるけど、そんなに輝くような笑顔で絶賛されちゃったら私……私……っ!


「あ、おかわりもあるからどんどん食べてね♪」


嬉しくなっちゃうじゃない!

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