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第2話 大和タケル(2)

ようやく昼休み。

俺の身体はすでにボロボロだ。


休み時間の度にミカエラが俺に抱きつこうとする。

ミサキちゃんにそんな姿を見られるわけにはいかないので、それを振り切ってなんとか逃げる。

しかしその先には嫉妬に狂った男共が待ち構えていて、俺は集団リンチを受ける羽目に……

お前ら、これは完全で純然たるイジメというやつだぞ。

俺がこのまま屋上から飛び降りたらお前らの顔と名前がネットに晒されて家族もろとも週刊誌に追われ続けることになるんだぞ。


「痛てて……あいつら、覚えてろよ」


傷だらけの身体を引きずって屋上へと逃れた俺は、フェンスに背中を預けて座りこんだ。

ここにはミカエラも男達もいない。

ほとんどの生徒は購買か食堂へ殺到している。

どうやらミカエラとベルも購買へ向かったようだ。

男達もそれに付き従って行ったため、俺は昼のパンを諦める代わりにこうしてひと時の平穏を手に入れたってわけだ。


そもそも、あんな日本人離れした超絶美少女がいきなり親戚だなんて言われたって信じられるわけないだろ。

しかも俺のことが好きだなんて……


自慢じゃないが、俺はこの十六年余りの人生で女の子から好きだなんて言われたことないんだぞ。

って、本当に自慢じゃないし自分で言ってて悲しくなるけど……


「とりあえず事の真相を問い質さねーとな」


携帯を取り出して、あまり多いとはいえない電話帳の中から『親父』と書かれた連絡先を選択して通話ボタンを押す。

そういえば、今頃両親はどの辺りにいるんだろう。

出掛けたのは昨日だからそんなに時差のある所には行ってないと思うけど……


――プルルル……プルルル……ガチャ


『ニイハオー! 我が息子よ、もう父の声が恋しくなったアルか~?』


ん?

誰だこのオッサン?

いや、確かに声は間違いなく親父のものだが、こんなハジけた親父の声なんて聞いたことないぞ。


「もしもし……? えらくテンション高いな」


俺の知ってる親父はどこにでもいるような面白味のない普通のサラリーマンだ。

デュークほどじゃないが、生真面目がスーツ着て歩いているような男だったはずだが……


『おう、世界を満喫しているぞ息子よ! ところで今父さん達がどこにいるか分かるアルか~?』


何なんだ、このウザさは……


「……中国か?」


『ハッハー、騙されたな! 答えはオーストラリアでした~!』


帰ってきたら絞め殺してやる。


「そんなことより、聞きたいことがあるんだ」


『何だ、コアラか? 近くで見ると意外と可愛くないぞ~』


知るかそんなもん!


「今日、ミカエラとベルって女の子が転校してきたんだけど、その二人と俺が親戚ってのは本当なのか?」


『おう、そのことか』


「そのことか、じゃねーだろ! あんな親戚がいたなんて聞いたことねーぞ!」


『うん、父さんも忘れてたんだ』


「忘れてたって……」


『いやぁ、なんかよく分からんが朝起きたら突然その2人のことを思い出してな。ついでにお前の高校に転校することも思い出したから連絡しておいたんだ』


何を言っているのかさっぱり分からない。

そんな重大なこと忘れるか普通?


『ああ、ちなみにその2人だがな、しばらくウチに泊まることになるから』


「はぁ!? どういうことだよ!? ウチってウチのことか!!?」


『ウチで面倒を見ることになってな。でも嬉しいだろ? 親戚とはいえ、あんな可愛いコ2人と同じ屋根の下だぞぉ』


今すぐオーストラリアに飛んで行って撲殺してやりたい。


「と、泊めるったってウチにそんな余裕なんてないだろ?」


ウチは貧乏ではないが決して裕福ではない。

いきなり女子高生2人の面倒を見るような金銭的余裕があるとは思えなかった。

ってか、そんな余裕あるなら小遣い増やしてくれよ。


『金のことは心配するな。あと、父さん達はしばらく帰らないから、サラと4人で仲良く暮らすんだぞ~』


「し、しばらく帰らないってどういうことだよ!? 五泊七日の旅行じゃなかったのか!?」


『予定変更だ。会社も辞めたしな。母さんと2人でじっくりと世界中を旅して回るつもりだ』


「何言ってるんだよ!? 正気か!?」


『じゃあそろそろ切るぞ。アディオス、アミ~ゴ~!』


アミーゴじゃねえっ!!


「ちょっ、まっ――」


切れた。

あのクソ親父、絶対殺してやる!


「一体……何がどうなってるんだ……」


何か、俺の知らないところでとんでもないことが進行している気がする。


「見つけましたわタケル様~!」


げっ、ミカエラ!

まずい、逃げたいけど身体が動かない。


「ついにわたくしの愛を受け止めてくださいますのね~!」


「ち、違……ぐぇっ!」


突進してきた勢いそのままに、ほとんどタックルのように抱きついてきた。


「は……離れ……苦し……」


ミカエラの大きな胸が俺の顔を圧迫し、呼吸ができない。

もしこれがミサキちゃんの胸だったら、このまま死んでも本望なのだが……って、何バカなこと考えてんだ!


「タケルから離れろコラー!」


本当に窒息死してしまいそうになった頃、突如として赤い閃光が何かを撒き散らしながら目の前を通過していった。

ベルがミカエラの頭に物凄い勢いで飛び蹴りを浴びせたのだ。

その軌道上にバラバラと零れ落ちたのは、ベルが抱えていた大量のパンだった。


「なっ、いきなり何をなさいますの!」


「うるさいっ! 毎回毎回タケルにベタベタしやがって! タケルはアタイのものだぞ!」


いや、助けてくれたのは感謝するけど、君のものでもない。


「はっ、何を言い出すのかと思えば。貴方のようなガサツで女性らしさの欠片もないような人、タケルさまがお選びになるはずがありませんわ!」


何やらヒートアップしてる。

美少女2人が自分を巡って争うなんて、本来なら男冥利に尽きるってやつなんだろうな、きっと。


「何をぅ! 男と見れば手当たり次第にぶりっ子振り撒きやがって! この淫乱の腹黒天使めっ!」


ん?

今、天使って言った?


「あらあら、自分が殿方に全く相手にされないからって八つ当たりは見苦しいですわよ。大体、本来悪魔は人間を誘惑して堕落させる存在だというのに……その貧相な身体でどうやって殿方を誘惑するのかしらねぇ」


ん?

今、悪魔って言った?


「ぐっ……! ちょっとぐらい胸があるからって調子に乗んなよ。そんなの、ただの脂肪の塊じゃねーかこのデブ!」


いや、それはちょっと言い過ぎ。


「何ですって! この幼児体型のチンチクリン!」


いや、それもちょっと言い過ぎだろ……


「おい、タケル! お前はどっちを選ぶんだ!?」


はい?


「そんなの決まってますわ。わたくしですわよね、タケル様?」


「アタイだろ!?」


は、話に全くついていけない……

一体どういう状況だ、これ。


「だからぁ、アタイを選んで魔王になるか、この腹黒ぶりっ子天使を選んで神になるか、って言ってんだよ!」


もっと訳分かんねーよ!

何言ってんだこのコ!?

これがいわゆる厨二病ってやつか!?


「……あのぅ、もしかしてタケル様は何もご存じないのでは?」


あ、やっと気付いてくれた?

うん、全く何もご存じないですよ。


「マジかよ!? 親父のやつ、ちゃんと説明したって言ってたぞ」


「お父様もですわ。もう、いい加減なんだから」


いいから早く説明してくれ。もう頭がどうにかなりそうだ。


「仕方ありませんわね。最初からご説明いたしますわ」


できれば手短にお願い。


「簡単に申しますと、タケル様には天使であるわたくしと、この悪魔、どちらかを選んで結婚していただきます」


「短っ! あ、いや、そんなことより結婚ってどういうこと!? ってか、天使とか悪魔とかって何!?」


ツッコミどころが多過ぎて何から処理していけばいいのか分からないぞ。


「タケル様は『アルマゲドン』をご存じですか?」


「……ブルース・ウィリスが隕石を壊す映画?」


「ちっがーう! アタイら悪魔とこいつら天使との最終戦争のことだ!」


ごめん、それは知らない。


「タケル様は聖書をお読みになりませんのね。日本人はあまり神をお信じにならないと聞きました。まあ、だからこそタケル様がターゲットとして選ばれたわけですけど」


今、ターゲットって言った?


「変に神や天使に肩入れしているような人間だったら公平な勝負にならないからな」


「え~っと……全く話が見えないけど、そのアルマゲドンがどうしたの?」


「そうでしたわ。人間界ではアルマゲドンは『最終戦争』と言われていますけど、実際は定期的に行われる全面戦争なのですわ」


いや、全面戦争を定期的に行うなよ!


「ですが、最近は天使も悪魔も仲良くなってしまって、戦争をしようとする者がいなくなってしまいましたの」


「……いいことじゃないか」


「まあっ! 全然良いことではございませんわ! 誇りある天使が悪魔と仲良くするだなんて汚らわしいっ! わたくしは断固認めるわけにはまいりませんわ!」


「けっ、それはアタイも同じだ。こんな連中と慣れ合うなんて、虫唾が走るね!」


なんか……お互いにそうとう嫌い合ってるな、この2人。

まぁ、天使と悪魔なんて仲悪い方が俺達にしてみたら普通だけど。


「わたくしは全面戦争を父である神・ゼウスに奏上いたしましたわ。ですが聞き入れてもらえませんでした」


「アタイも魔王の親父に言ったけどダメだった」


え?

この2人って、神と魔王の娘!?


「その代わりに父が提案したのは、天使と悪魔から代表者を1人選び、人間界から選抜した殿方の心を奪った方を勝者とする、というものでした」


全面戦争の代わりにしちゃ、随分と可愛い内容だなオイ。

ん?

ってことは……


「その、選抜された男ってのが……」


「そう。タケル、お前だ!」


なるほど、そういうことだったのか~

……ってなるわけねーだろ!

何とか理解しようと努力してみたけど、やっぱり無理!

誰が信じるんだこんな話!


「やっぱり信じてはいただけませんのね」


ミカエラが哀しそうな表情を浮かべる。

何故か罪悪感が……


「いや、だって……そんなこといきなり言われても……そうだ、何か証拠はないの?」


「証拠……ですか?」


「そう、証拠! 君達が天使や悪魔だっていう証拠を見せてくれれば信じるよ」


何言ってんだ俺は?

こんなアホな話に証拠を要求するって、半分信じてるってことじゃないか。


「そう言われましても……人間界で我々が『力』を使うことは禁じられておりますし……」


メチャクチャありきたりな答えが返ってきた。

ほんの少しでも期待した俺が馬鹿だったよ。


「それじゃあとても信じられな――」


「あーもうゴチャゴチャうるっせーな! だったら、お前はこんな美人に初対面でいきなり求婚されるような状況が普通にあると思ってんのかよ!?」


ぐはぁ!

メチャクチャ痛いところを衝かれてしまった!

確かにベルの言う通り、女子にモテた経験なんて一度もない俺が急に2人の美少女から同時に結婚を申し込まれるなんて、むしろ常識的な理由を探す方が難しい。

ってか、まさか『こんな美人』っていうのは自分の事じゃないよな?

まぁ、可愛くないわけではないけど……


「そりゃ……まぁ、確かに……」


一生分の『モテ期』がいっぺんにやって来た――でも無理があるよな。


「では、信じていただけるのですね?」


ぱぁっとミカエラの表情が明るくなった。

見た目が子供っぽい(っていうか完全に外見は子供だが)ベルよりも、むしろミカエラの方が表情がコロコロと変化する。

その一つ一つがまた可愛らしくてドキドキしてしまう。


確かに、普通に考えれば馬鹿馬鹿し過ぎてとても信じられない話だけど、そのくらいぶっ飛んだ理由でもなければ朝からの一連の不思議な出来事が説明できないよな。


「じゃあ、君達が俺の親戚ってのも……」


「もちろん、嘘ですわ」


あっさり認めやがった。

神とか天使がそんなに簡単に嘘ついていいのかよ。

ってか、そもそもそんな嘘つく必要ないだろ。


「それは、赤の他人が同じ屋根の下で暮らすというのはやはり世間体が悪いというお父様の配慮ですわ」


いや、なんで一緒に暮らすのが前提なんだよ!?


「いいだろ別に。ちゃんとお礼はしたんだからさ」


お礼?


「わたくし達に住まいを提供してもらう見返りとして、タケル様のご両親には神から様々な贈り物をさせていただきましたわ」


もしかして、いきなり世界一周旅行が当たったのはこいつらの仕業か。

寂れた商店街の福引で世界一周旅行なんておかしいと思ったんだよ。

そういえば親父、金の心配はしなくていいとか言ってたよな。

何があったかは知らんが、それもこいつらが絡んでるとしたら……


「……分かったよ。居候するのは認めてやる」


すでに金を受け取っているのなら拒否はできない。

今更返せと言われても、親父はすでに会社を辞めてしまっているし、家族4人で路頭に迷うのは御免だ。


「ありがとうございます、タケル様!」


「だから抱き付くなって! いいか!? 家に泊めるのは仕方ないとしてもだな、その……どちらかを選んで結婚とか……俺は絶対しないからな!」


「まぁ……! タケル様はわたくしのことがお嫌いなのですか……?」


眼に涙を浮かべるミカエラ。

ちょっと心が痛む。

そして何より、そんな顔もメチャクチャ可愛くてヤバイ……


「じゃあ、人類がどうなっても構わねーんだな?」


「え?」


ベルから意外な言葉が出てきた。

なんでそこで人類がどうとかって話になるんだ?


「お前がどっちも選ばずにこの勝負が流れたら、今度こそ悪魔と天使の全面戦争さ。アタイとしちゃ、天使の奴らを皆殺しにできるならそれでもいいけどな」


見た目は子供でもやっぱり悪魔だ。

さらっと恐ろしいこと言いやがる。


「まあ、わたくしとしましても汚らわしい悪魔を根絶やしにできるのならそれに越したことはありませんけど……」


こっちもこっちで何恐ろしいこと言ってんだ!?


「ですがその場合、人間界にも少なからず影響が出ることになりますし」


何?

天使と悪魔の戦争って、俺達人間とは関係ないところで勝手にドンパチやってんじゃないの?


「別に大したことじゃねーけどな。その時によって違うけど、まあ大体人口の1/3ぐらいが消し飛ぶだけだ」


大したことありまくりじゃねーか!

なんでお前らの喧嘩に20億人以上の人間が巻き込まれなきゃいけないんだ!?

ってか、今までもそんな傍迷惑な戦争を定期的にやってやがったのか!


「ですから、タケル様には是非わたくしを選んでいただきたいのですわ。お気に召さないところがありましたら何なりとお申し付けください。わたくし、タケル様の理想の女性となれるよう、精一杯頑張りますわ」


う……こんな美人にここまで言われるなんて……!

ヤバイ、気を確かにもってないとすぐに落ちそうになる……


「で、でも……君だって親が決めた勝負のためにそんなこと言ってるんだろ? そんなことで好きでもない男と結婚するなんて……」


ミカエラは戦争に勝つために俺に求愛してたんだ。

そりゃそうだ、本当にこんな可愛いコが俺に惚れるなんて天地がひっくり返ったってありゃしない。


「まあっ! そんなことありませんわ!」


急に真剣な表情になるミカエラ。

ってか、いちいち顔近い!


「わたくしも最初にお父様からこの話を聞かされた時の絶望感は、コキュートスに囚われたガブリエル様の嘆きに勝るとも劣らぬほど……」


いや、例えが分からん!


「言っとくけど、お前んとこのガブリエルはコキュートスで水浴び中に足を滑らして溺れた挙句に氷漬けになっただけだからな。立ち入り禁止水域に勝手に入り込みやがって……」


いや、どうでもいいわっ!

そんなことより、やっぱりミカエラだって嫌だったんじゃないか。


「んんっ! ……ですが、初めてタケル様を拝見したその日から、わたくしの心はタケル様の虜になってしまいましたわ。タケル様こそ、お父様の後を継いで神の座に座るべきお方ですわ!」


神様になるべき人って……俺、いつからそんなに偉くなった?


「けっ、何言ってんだ。タケルはアタイと一緒になって魔王になるんだ。タケルならあのクソ親父を超える立派な大魔王になれる!」


神様も困るが、魔王の素質を認められるってのもどうよ……


「馬鹿も休み休みおっしゃい! タケル様が汚らわしい悪魔の親玉になどなるはずがありませんわ!」


「口では綺麗事言いながら裏では何考えてるか分かんねー腹黒天使の方がよっぽど汚ねー存在じゃねーか!」


「何ですって! もう我慢がなりませんわ! これ以上の侮辱は許しません!」


「上等じゃねーか! 何ならここで決着つけてやろうか!?」


やば……なんかまたヒートアップしてきたぞ。

今にも取っ組み合いの喧嘩でも始めそうだ。


「ちょ、ちょっと落ち着いて。ほら、他の人も見てるからさ……って、他の人ぉ!?」


いつの間にか俺達のすぐ近くに2人の女子が立っていた。しかもその中の1人は――


「ミサキちゃ……あ、いや、天宮……? どうしてここに?」


不思議なものを見るような眼でぽかんと口を開けているミサキちゃんに、恐る恐る声をかける。

一体いつからここにいたんだ?


「ああ、忘れてた。イチコ達と一緒に昼飯を食うんだった」


それまでミカエラと一触即発の様相で睨み合っていたベルが、急に態度を変えて2人の方へ歩み寄った。

全く話が見えないが、どうやらベルが2人を誘ったようだ。

一体いつの間に……しかもよりによってミサキちゃんを誘うなんて……


「えっと、大和……君? 今の話って……」


「い、今の話!? 今っていつからの今!?」


思わず声が裏返る。

ただでさえミサキちゃんと話をするのは緊張するのに……ってか今までほとんど話すらしたことないけど。


「天使とか悪魔とかアルマゲドンとか言ってた時からよ」


2人のうちのもう1人、ミサキちゃんの友達で同じクラスの巫(〝かんなぎ〟と読むらしい。変わった名字だ)イチコが静かに言った。

このコはいつも無表情でちょっと苦手なんだよな。

まぁ、基本的に女の子はみんな苦手なんだけど……って、そんなことより、ほとんど全部聞かれてたってことじゃねーか!


「い、いや……冗談だよ、冗談。そんなの決まってるだろ?」


アハハ、と乾いた笑い声を上げてみる。

けど(かんなぎ)イチコは無表情のまま眼鏡の奥からじと~っとした眼で俺の顔を覗き込んできた。

うっ、これが数々の男子に恐れられる『絶対零度の視線』か……


「あら、冗談なんかではございませんわ。今話したことは全て真実ですわよ。もちろん、わたくしのタケル様への想いも」


だぁもう!

余計なこと言うなよ!

色んな意味で!


「はぁ、ひはれひあっらららしははれーは」


何て?


「んぐんぐ……まぁ、聞かれちまったなら仕方ねーな」


ああ、そう言ってたのね。

口一杯にパンを頬張ってるベルはなんだか凄く幸せそうだ。

そんなに購買のパンが美味いのか?

いや、それよりなんでコイツらはこんなに開けっ広げなんだよ!?

普通、こういうことは秘密にするもんじゃないのか?

この場合の普通が何なのかは分かんないけど。


「ふーん。で、この2人のどちらかと結婚するのね?」


巫の視線は相変わらず冷たい。というよりさっきよりも一層冷たくなった気がする。

ってか、なんでそんなにすぐ受け入れてんだ?


「ちっ、違うよ! それはこの2人が勝手に言ってるだけで、俺には……」


「……俺には?」


ミサキちゃんが、と危うく口走りそうになって慌てて口をつぐんだ。

でも、ミサキちゃんの誤解だけは解いておきたい。


「……まあいいわ。それよりもお弁当食べましょ、ミサキ」


「う、うんイッチャン……」


え……まさか、ミサキちゃんが俺と一緒に昼飯を……?

き、奇跡だ。まさこんな日が来るなんて!


「相変わらず面白い顔してるわね、あなたって。ね、ミサキ?」


巫が無表情のまま俺の顔を見、そしてミサキちゃんへと視線を移した。

かなり失礼なことを言われた気がするし、そもそも面白いと思っている人間の表情じゃないだろ、それ。


「え? 別にそんなこと……フフ」


笑った!

ミサキちゃんが笑った!

ちくしょう、やっぱり可愛い!

顔のパーツの1つ1つやスタイルで言えばミカエラの方が美人なんだろうけど、やっぱり俺にはミサキちゃんが一番だ!

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