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第25話 大和タケル(11)

「あ、えと……き、昨日は大変だったね」


巫がケンジをどこかへ連れ去っていったおかげで、思いがけずミサキちゃんと2人っきりになってしまった。

もしかして、これって巫なりに気を遣ってくれたのか?

昨日のお礼の代わりに?

ってことは、巫は俺の気持ちに気付いてる!?


「う、うん。そうだね……」


か、会話が終了してしまった……

くそっ、せっかくのチャンスなのに、もっと気の利いたこと言えないのかよ俺っ!


「あのさ……」「あの……」


うわっ、被った!


「あ、大和君から」


「いやいや、ミサキちゃんから」


「えっ?」


しまった!

つい名前で呼んでしまった!


「…………」


き、気まずい空気が……


「あ、ご、ゴメン天宮。これは……その……」


何とかこの場を誤魔化さないと!

あんなにはっきり言っておいて今更だけど……


「う、ううん。ちょっとびっくりしちゃったけど、イッチャンとか友達も名前で呼んでるし……別に、それでも……いい……かな」


う、嘘!?

奇跡だ!

まさかミサキちゃんを堂々とそう呼べる日が来るなんて……!

もう、俺……死んでもいいかも。

ただの友達だとしても、今までからすればかなりの進歩だ!


「……大和君?」


はっ、あまりの幸せに魂が抜けかかってた。

俺、とんでもない間抜け顔になってたかも。


「ぷっ……あはは!」


笑った!

ミサキちゃんが笑った!

ちくしょう、やっぱり可愛い!

って、前にも言ったな、これ。


「ねえ、覚えてる? 中学2年の時のこと」


え、中2?

それって確か、初めてミサキちゃんと同じクラスになった時だよな。


「新学期になって最初のクラス委員決めの時、大和君、美化委員に立候補したよね」


「そう……だったったけ? よく覚えてないや」


「私は覚えてるよ。あの時、男子は誰もやりたがらなくて、だんだんクラスの雰囲気が険悪になっていったよね」


あ、何となく思い出してきた。

確か女子の方はもう決まってて、あとは男子の美化委員を決めるだけだったんだよな。


「それで、誰かが田中君……だっけ? 1人の男子に押し付けようとしたんだよね」


そうそう、クラスの中で一番気の弱そうだった田中に、誰かが「お前やれよ」って言ったんだよな。

それに他の男子だけじゃなくて、早く帰りたい女子も乗っかっちゃって、田中も断れなくなったんだよ。


「そんな時、田中君を庇うように大和君が「俺がやる」って言ったんだよね」


そうだ。

あの時はクラスのそんな雰囲気が嫌で、別に田中と友達だったわけじゃないけど、ついそんなことを言ったんだった。

今思えば、かなり恥ずかしいことしたなぁ。

でも、そんなことをミサキちゃんが覚えててくれたなんて。


「優しいよね、大和君って。昨日のこともそうだけど、あの頃から全然変わってない」


「い、いや……そんなことないよ」


「ううん、大和君は優しいよ。じゃあ、あれは覚えてる? 私が家の鍵を失くして、大和君が一緒に探してくれたこと」


あっ、それは覚えてる!

新学期が始まって3か月ぐらい過ぎた頃だったはず。


「どうしたらいいか分からなくて1人で途方に暮れてた私を、大和君が助けてくれたんだよ。それまで別に話したことがあるわけでもないのに」


「えっと……それは……」


君が好きだったから、なんてここでさらっと言えたらなぁ……!

でも、ミサキちゃんって、俺のことちゃんと覚えてくれてたんだ。

これってもしかして……


「……ねえ、ひとつ訊いてもいいかな?」


「えっ? あ、うん。何?」


「えと……ミカエラさんとベルさん、帰っちゃったんだよね」


「あ、うん。やっぱりミ、ミサキ、ちゃん……も知ってたんだね」


くそっ……やっぱりまだ名前を呼ぶのは恥ずかしい。

しっかりしろ、俺!

今最高にいい雰囲気なんだぞ!


「うん……せっかく友達になれたのに、残念だなって」


「そう……だよね」


やっぱりミサキちゃんは優しいな。

短い付き合いでも、ちゃんと2人のこと友達だと思ってるんだな。

でも話がどんどん違う方向に流れていってるような……


「やっぱり、大和君もそう思ってる?」


「えっ!? それは、その……」


これはどう答えたらいいんだ?

寂しくないって言えば嘘になるし、薄情な奴って思われるかな。

でも寂しいって言ったら誤解されちゃうかもしれないしなぁ……


「……ミカエラさんって、凄く綺麗な人だったよね?」


「えっ? あ、うん……」


何だ何だ?

話がどんどん進んでくけど、全然着地点が見えてこないぞ。


「えと……それでね、ミカエラさんって大和君のこと……好き……だったじゃない?」


「そっ、それは……でもあれは……2人の勝手な勝負っていうか……」


ミカエラとベルの妙な勝負のことはミサキちゃんだって知ってるはずだ。

最初は冗談だと思ってただろうけど、2人の正体を知ってしまった今なら……


「うん……ベルさんの方はよく分からなかったけど、でもミカエラさんは本気だったんじゃないかな」


う……なんでミサキちゃんはこんなことを……?


「あっ! ご、ごめんね。なんか……変なこと言って……」


「う、ううん! そんなことないけど……」


マズい!

ちょっと困惑が顔に出ちゃったか。


「えっと……何が言いたいかっていうとね。ミカエラさんみたいに綺麗な人に好きって言われたら、普通の男の人だったら嬉しいんじゃないかなって」


まぁ、それは……ね。

正直俺だって嬉しくなかったわけじゃないし。

でも俺は――


「……でも大和君って、ミカエラさんの気持ちに応えなかったよね。それってなんでなのかな……って」


「そ、それは……」


まさかの展開!

ミサキちゃんからこんなこと言われるなんて……!

これってもしかして絶好の告白チャンスなんじゃ――


「……もしかして大和君って……その……他に好きな人が……いる……の?」


「い、いやっ! いないよ、そんなの!」


って、俺の馬鹿!

今最高のチャンスだっただろ!


「あ、そう……なんだ」


違う、違うんだミサキちゃん!

俺は本当は君のことが――


「あれ?」


えっ、何?


「あれ……何かな?」


そう言ってミサキちゃんは空の向こうを指さした。

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