エピソード(3)
「いや~、間一髪だったね。怖かっただろう? パパの胸で思う存分泣いていいんだよ」
「キモイ!」
「ぐはぁ! べ、ベルちゃん……なぜパパに飛び蹴りを……っ!」
「うるさいっ! だいたい、助けに来るならもっと早く来いよ! そうすりゃアタイだってルール破って変身する必要もなかったんだ、馬鹿親父!」
「そ、それは仕方ないんだよ。パパのような大物……っていうか魔王が人間界に干渉することがどれだけ大変なことか……」
「知るか! アタイは……もっとあっちの世界にいたかったんだ!」
「それは、あのおさげの娘と一緒にいたかったということか?」
「う……いきなりシリアスな顔になるなよな」
「どうなんだい?」
「そ、そうだよ。イチコは大事なダチだからな」
「ふ~む……ベルちゃん、本来の目的を忘れてやしないかい?」
「本来の目的?」
「君は大和タケルという人間の男と結ばれるために人間界に降りたんだよ? そっちの方はどうなってるんだい?」
「そっちの方って……」
「向こうのミカエラちゃんに対して、君は全くと言っていいほどあの男にアプローチしていなかったようだが?」
「そ、それは……」
「それは?」
「べ、別にそんな事どうでもいいだろ!? どうせもうこの勝負は無効になったんだから」
「ところがそうでもないんだな」
「えっ……?」
「今回の事は、まぁ、人間を守るための非常措置ということで、不問にしてもいいのではないかという意見が多かったんだ」
「それじゃ……アタイはまた人間界に戻れるのか?」
「だがその前にはっきりさせておかねばならない事がある」
「な、何だよ?」
「だから、大和タケルに対する君の気持ちだよ」
「うっ……」
「勝負の趣旨からして、大和タケルに対して何の想いも持ち合わせていないと言うなら、君を人間界に戻すわけにはいかない」
「…………」
「正直な気持ちを聞かせてほしい。分かっているとは思うが、吾輩に嘘は通用しないよ?」
「……本当言うと、アタイにだって分からないんだ」
「うん」
「最初は、この勝負が流れればいいと思って、ミカエラの邪魔ばかりしてた」
「そうだね」
「何か……ミカエラがタケルにくっつくのが無性に腹立って……」
「…………」
「でも、ミカエラだけじゃなかったんだ! 他の女でも、タケルが誰かとくっついてるのを見るだけでイライラして……っ!」
「イライラ、ねぇ」
「なぁ……これってどういうことなんだ!? アタイ……やっぱりタケルのこと……っ!」
「なるほど。君の気持ちはわかったよ」
「親父……」
「それじゃあ、君だけは人間界に戻してあげよう」
「本当かっ!? えっ……アタイだけ?」
「ミカエラちゃんだって君を助けるために禁を犯したわけだし、吾輩としては別に彼女も許してあげていいんじゃないかと思うんだが」
「そ、そうだよ! なんであいつだけ!?」
「御大も普段はおちゃらけてるくせに、こういうことには厳格だからなぁ。吾輩からは何とも……」
「うぅ……」
「だけど、君にとっては好都合なんじゃないかい? 彼女がいなければ大和タケルを落とすのも簡単になるだろう?」
「それは……でも……」
「どうやら今回の勝負は我ら悪魔の勝利のようだね。前回の雪辱も果たせて何よりだ」
「……親父」
「後は実際にベルちゃんが大和タケルをこの魔界に連れてきて、吾輩の代わりに魔王の座に就くのを待つだけだね」
「親父!」
「ぐわっ! まさかのケツキック!?」
「親父……やっぱりアタイは――」




