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きわ物語
『”セイラちゃーん、まだぁ?俺待ちくたびれてるんだけどー?”』
色は鮮やかに染まって毛先がトゲトゲした髪型をした俗に言う”チャラ男”は携帯電話を片手に夜の道路の脇で彼女と話していた。
『”ごめーんっもうすぐつくからねーっ”』
機械越しに彼女の声が聞こえて彼は安心した
そっと電話を切ると暗闇の向こうに
人の気配がした
前から怪しげな男が歩いてくる。
”何か”がヤバい…本能が叫んでいる。
心の臓が暴れる
ドクンドクンッ…
しかし男は彼の身構えに興味など示さずただ横を素通りしただけだった
考えすぎか…?
彼は嫌な胸騒ぎを無理やり抑え込むように自分に言い聞かせた
そして彼は気付いた。
自分の体が切り刻まれていることに。
『なんだ…これ…』
しばらくして彼女が待ち合わせ場所に着いたが…
『お待た……せ…?……キャァァァァアッ』
満月の夜に彼女の甲高い声が響いた。
この世界には不思議な力を持つ者がいる。
人々はその能力を”きわ”と呼ぶ。