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006

「ワイエムシー・サンサンマル?」

届いた作戦計画書に笹原が目を通し、不思議そうな声を上げた。

「YMC……っていうと、米軍がハーキュリーズの翼へし折ったアレですかね?」

「多分な。C-330でも一応制式装備になってたはずだぜ」

輸送機の機体各所にロケットブースターを貼り付け、その大出力で短距離離着陸を行おうという、なんとも乱暴な思想のシステムだ。

「使えるレベルには達してるってことだろうな。それで、俺たちの仕事はそっちじゃない。椎名、解ってるな?」

「マインプラウをドーザー代わりにバリケード排除、ですか……」

「バリケードと言っても、せいぜい自販機やベンチを倒した程度でしょう。レールを溶接して対戦車障壁を作った訳じゃない」

「って笹原少尉のご見解だが、どうだ椎名?行けそうか?」

「やるしか無いんでしょうよ」と、相変わらずの陰気な返答。

「その通りだ、やって貰わねば困るぞ。……とは言え、精神論でどうにかなる問題じゃないのも事実だよな。余りに硬そうだったら、先に四〇ミリで吹き飛ばしちまおうかね」

「ただ今戻りました!」と竹内巡査が車内へ駆け込んできた。

「SWATの隊長さんから無線の周波数を貰ってきました」

「おお、ありがたい。一応繋がるかチェックしといてくれっか?」

「了解です!」

SWATは所属こそ警察だが、その実屋内戦闘専門の軍隊のようなものだ。陸軍と合同訓練を行ったという話もよく聞くし、そこそこ信頼して問題ないだろう。

現在、二〇時〇四分。作戦開始まで、あと四時間か……。

「繋がりました!」とやたら嬉しそうな竹内巡査。

「ちょっと話させて貰えるかな?」

「あ、はい、どうぞ!」

彼女が差し出した無線機を握り、プレストークスイッチを押す。

「えー、聞こえますか?自分は白鷺国陸軍、第三機甲偵察隊所属、空閑颯中尉です」

「あっテメ、空閑か!?俺だ宮前だ!」

緊張感を持って臨んだ会話に、非常に砕けた声が返ってきた。

「宮前先輩!?何やってんすか!?」

記憶に誤りがなければ、高校で非常に世話になった二つ上の先輩、宮前博人その人だ。公安関連に進んだとは聞いていたが……。

「刑事になりたかったんだが、色々あってSWATだ。小隊一個預かってる。……あ、俺の階級は軍隊で言うとこの曹長あたりなんだが、ってことはお前より下か。失礼しました中尉殿」

「いやいやいや、戦車隊の下駄履いてるだけですよ!権力的には先輩よりずっと下ですって!」

白鷺国は機甲兵力で国を造ってきた歴史がある。そのため、戦車乗りの階級はかなり高めに設定されているのだ。だがそれで威張り散らせるということは無かったりする。

「しかし奇遇だなあ、まさかお前とこんなとこで会うとは。……ところでだな、一つ頼まれてくれんか?」

「何ですか?」

「空港ビルへ突入後、撃ちまくって敵の気を引いて欲しい。うちの車両は単なるバスだ、AKで狙われでもしたらひとたまりもない」

「了解です。というか、そもそもその為に来たんですよ、俺ら」

「すまんな。頼んだぞ」

二言三言喋って通話終了。竹内巡査へ無線機を返す。

「チョコ食べる?レーションのおまけだけど」

おまけと言うか、戦闘糧食を食べる時間すら無い時にカロリーと糖分を胃へ叩き込むためのものだ。内容的には市販のM&Mチョコレートと変わらない。戦場では通貨として流通したりもするらしい。

「え、ありがとうございます!」

顔全体で喜びを表して袋を受け取る竹内巡査。本当に女子高生にしか見えない。

「竹内さんは、なんでまた警察に?ノンキャリはしんどいでしょ」

ふと問うてみる。

「小さい頃見たドラマの、かっこいい警官に憧れて……。現実はそんなに甘くなかったですけどね」

少し表情を翳らせて答える竹内巡査。

「そっかあ。あまりに合わんのなら、警備会社にでも転職したらどうだ?まだ一九とかでしょ、人生やり直し効くよ。警察に居たって履歴は結構役に立つらしいし」

「じゅ、一九って……。一応、お酒飲める歳ですよ!」

「そいつの嫁なんてどうです?中尉も今年二七でしたっけ、そろそろ結婚真面目に考えないとヤバい歳っしょ」

「え、ええええええええええええっ!?」

「よっぽど撃ち殺されたいようだな!」

笹原が入れた茶々に真っ赤になる竹内巡査。

大規模な作戦前だというのに、全く緊張感の感じられない会話が続く。

ああでも、こんな子が嫁さんなら毎日楽しいかもな。

そんなことを、漠然と思ったりもした。



「ミスター・ゴトウ、我々の気概は伝わったかな?」

タンゴーが余裕たっぷりな声で尋ねる。

「ええまあ、厭と言うほどね。おかげさまで首のあたりがひんやりしてますよ」

「そいつはご愁傷様だな。ところで、我々の要求に対する政府の対応がどうも鈍いように見受けられるのだが?」

「五〇〇億近い金をポンと出せるほど、国ってのは自由に出来とらんのですよ。テレビでもやってるように、現在臨時予算を組んでます。脱出手段だって運転手が必要だ。現在その辺を詰めている所だそうで」

勿論嘘だ。テロリスト向けのパフォーマンスを行い、時間を稼いでいるというのが実情だった。

「どうにも遅いな。そうだ、一時間ごとの処刑でも始めて見せようか?少しは君らも危機感を抱くだろう」

「お止めになったほうがいい。次、人質を処刑したら、政府は交渉の余地なしと見て武力による強行解決を図るそうです。恐らく、奪還部隊の派遣とか、そういう生ぬるい方法じゃない。砲弾百発が空港ごとあなた方を粉砕しますよ」


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