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006


人質三人の死体がターミナルビルから放り出されたのは、夕日が水平線へ半分ほど沈んだ時のことだった。



「これ、警察のミスかねえ?」

「先に手ぇ出したのは奴らだからなあ。RPG持ち出してきたことを考えれば、四〇ミリ砲も過剰防衛とは言えないんじゃないか?」

そんな会話を小耳に挟みつつトレーを運ぶ。

「開けてくれー」と後部ハッチを蹴ると、数秒のラグの後、中央で分割された長方形のハッチが油圧ピストンで口のように上下に跳ね上げられて開いた。

下へ降りてきたハッチの下半分に足を掛けて兵員室に入る。

「お帰りー。非魔妖始まっちゃってますぜ」

「げ、マジかよ!?飯勝手に取ってくれ」

おむすび三つと紙コップの豚汁を持って車長席に駆け上がり、私物のタブレットを起動。マイクロUSBケーブルを繋ぎ、装甲車のアンテナとリンクさせて受信感度を上げる。

衛星放送アプリを選択しチャンネルを切り替えると、目当てのアニメ番組が映り始めた。

「そういや竹内さんは?」

十分な温かさの残るおむすびに内心で歓喜しつつ尋ねる。兵員室へ降りた笹原が、「警察の方で飯が支給されるってんで、受け取りに行きましたよー」と返答を寄越した。

しかし、陸軍は最新の二四式野外炊飯装置を施設中隊の厚意で派遣してもらえたため温食が確保できたが、警察にはそもそもそんな装備はなかったはず。そして幕の内弁当を巡査クラスにまで行き渡らすような太っ腹さも無かったと思う。

「あ、あの、お邪魔しても……?」

「お帰りー。全然構わんよ、この通りむさ苦しいけど。それ配給?」

おっかなびっくり顔を出した竹内巡査は、コンビニで売っているようなサンドイッチを胸元に抱えていた。

「あはは、自腹でした……」

まあ予想できた事態だ。と言うか、そこで金取るのか……。

「そこの豚汁飲んでいいよ、一個多く貰ってきたから。パンに合うかは知らんけど」

「え、いいんですか!?ありがとうございます!」

きちんと種抜きされた梅のおむすびに齧り付きつつ会話を続ける。タブレットの画面では、オレンジ色の髪をしたショートカットの少女が頭にパンツを被り、顔を真っ赤にした青髪ポニテの少女に追い回されていた。……てかこれ、一応、一応子供向けアニメだぞ。公式飛ばしすぎだろう。原作の雰囲気に忠実といえば忠実だが。

「足りんかったら陸軍の配給所行っておむすび貰ってこい。クガの知人です、って言えば多分通じるから」

陸軍学校の同期が配給所を取り仕切っていた。そこそこ仲のいい奴だったので、俺の名前を出せば取り計らってくれるだろう。

しばらくアニメを見つつ黙々と食事を続ける。魔女や吸血鬼まで絡んだ壮大なパンツ争奪戦が、大型トラックの横転によってようやく終了した。この作品では平常運転だ。

やたら格好良いエンディングと次回予告を挟んでアニメは終了。イントロが流れ、アナウンサーが一礼して夕方ニュースが始まった。

『きょう昼に発生した白鷺第二空港占拠事件。これまでの動向を振り返ってみましょう。鮎秦さん』

『はい。まず本日午前一一時頃……』と、鮎秦と呼ばれた女子アナが巨大なボードを使い、簡潔に出来事を順序立てて説明していく。

『この事件において、午後六時頃に殺害された民間人三人の身元が判明しました。白鷺国青藍にお住まいの……』

「この人たちにも、家族がいたんですよね……」

竹内巡査がぽつりと漏らす。

「ああ、ある意味俺らが殺したようなもんだ。人質に取られて射殺じゃ、有益な犠牲でしたなんて言えたもんじゃないしな……」

「これからも死ぬっすよ、人質じゃなく味方が」と笹原。

「警察の交渉班が時間稼いでるらしいが、あんま長くは保たんだろうな。……となると、奪還作戦があるとしたら今日明日か」

「まさか金与えて逃がしてやるつもりなんて無いでしょうよ」

珍しく椎名が足元の操縦席から会話に加わってきた。

「ああ。降りかかる火の子は全て打ち払うのがこの国のモットーだからな。建国以来そうしてきたんだ、今回も例外じゃないだろう」



「本作戦において障害となるのは二点。ひとつは、人質を収容するボーイング787に爆発物が仕掛けられている点、そしてもう一つは、テロリストが対空ミサイルを保有しているという点です」

作戦説明担当の将校が空港の見取り図を示しつつ喋る。

「爆発物については、空軍のF15戦闘機がEMP爆弾を落とし、起爆装置の電子回路を無力化します。その後、特殊戦闘連隊を乗せたYMC-330が駐機場へ強行着陸。特殊戦闘連隊は787内のテロリストを殲滅、乗客を解放します」

「ヘリでなく大型輸送機を使う理由は?あれは小回りが利かない」

空軍から質問が入る。

「はい、しかしヘリより頑丈であり、強力な防御措置も有しています。ヘリならミサイル一発で墜落ですが、C-330なら最悪でも胴体着陸に持ち込める。敵は重武装であるという点を考慮しました」

「続けてくれ」

「はい。同時に、EMP弾を合図として、第三機甲偵察隊の一九式歩兵戦闘車を先頭に、SWATが空港正面エントランスから突入します。一九式で建物内部に築かれたバリケードを排除、SWATは一九式の火力援護を受けつつ、ターミナルビル展望デッキのテロリストを攻撃。可能な場合は一部を拘束し、事態を収束させます」

「うん、良いんじゃないかな。作戦決行時刻は?」

「準備時間などを考慮して、今晩零時を予定しております」

「了解した、取り掛かってくれ。あと五時間しかないぞ」

「了解しました!」




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