ピクルス・メーカー
これを書いている今現在酔っています。
その日、朝起きて、僕はどうしてもピクルスが食べたくなった。ピクルスだ。マックとかに行くとそれを除いて注文されちゃったりしがちなあれだ。僕はモスとかでそういう注文をしでかすJKの後ろに並んだりすると内心思う「その分のピクルスを僕のに入れてくれ!」と。あと同時に以下のような下賎なことも考える「この戦争時代を知らないJKにピクルスをぶち込んでやろうか?」と。下賎だ。どうしようもない。それに僕だってかぼちゃが苦手だ。だから僕だってかぼちゃをぶち込まれかねない。でもかぼちゃをぶち込まれたら死んでしまうんじゃないかと思う。
・・・下賎な話だ。今関係ない。
とにかく、僕はその日の朝ピクルスを食べたくなった。なので僕はとにかく起きて風呂に入ってから家を出て、そんで電車に乗って新宿御苑に向かった。
僕にとってピクルスというのは新宿御苑である。新宿御苑の「江戸東京野菜のピクルスと御苑ゆかりのオリーブ添え300円」なのだ。もちろんロッテリアやバーガーキングとかのハンバーガーに挟まったピクルスだって嫌いではない。でも残念ながら僕にとって『ピクルスを食べたくなった』時は新宿御苑なのだ。新宿御苑の「江戸東京野菜のピクルスと御苑ゆかりのオリーブ添え300円」なのだ。あれ以外にはない。それは、ありえないことだ。
それだから新宿御苑のあのピクルスとオリーブのことを想像すると、自然とニコニコとしてしまう。ニコニコ動画で日本のアニメの主題歌を外人さんが歌ってみた動画を見るみたいにニコニコとしてしまうのだ。 その証拠に、電車の窓に映る自分の顔はニコニコとしていた。ニコニコが止められないのだ。
しかしながら、
世の中はそうそう、
上手く出来てはいない。
電車を降りてその場に着くと、新宿御苑新宿門門扉の目の前にはなんかの看板が立っていた。僕はそれを読んでみて愕然とした。
「デング熱の為、うんたらかんたら~」
僕は愕然とした。
戦慄した。
絶望した。
絶望したっ!!
楳図かずお先生の漫画のように叫んだ。
黒沢清監督の「叫」のように叫んだ。
「シェラ・デ・コブレの幽霊」のように叫んだ。
「・・・」僕は黙ってその看板を凝視しながら考えた。納得がいかない。今、今だ。今僕はどうしても食べたい。食べないと死ぬ。死に値する。万死に値する。ジェラードだってよく言っている。僕の頭にはそのセリフがリフレインした。それどころかユーミンの曲のように「リフレインが叫んでる」状態だった。
それまでの僕は美食というものが罪だと思っていた。まごうことなき罪だ。でもそんな僕ですら、美食は魂の堕落だと思っていた僕ですら「江戸東京野菜のピクルスと御苑ゆかりのオリーブ添え300円」はとんでもない化け物だったのだ。僕は思った。これで堕落するならば、堕落するのは仕方のないことだ。魂が堕落しても食べたい。「江戸東京野菜のピクルスと御苑ゆかりのオリーブ添え300円」はそれくらい僕にとって避けることができないものなのだ。アルマゲドンではブルウィルさんのとかの活躍で隕石を避けることができた。でも、避けられないものだってこの世の中にはあるはずだ。子供が出来たら結婚は避けられないようにだ。当たり前だ。避妊もしないで中に出したら子供ができるのだ。子供ですら知っている。だから僕は新宿御苑新宿門門扉の前で考えた。「江戸東京野菜のピクルスと御苑ゆかりのオリーブ添え300円」のことを考えながら目の前の新宿御苑新宿門門扉を眺め続けた。
そしてある決意のもと、僕はピッタリと閉まっている新宿御苑新宿門門扉の入り口に飛びついた。気持ち的には武士くんがはじめてホワイトラビットになったときと同等のつもりだ。しかし残念ながら僕はホワイトラビットではないし、この先もそういう機会は巡ってこないだろうということがその時、残虐無残なことに判明した。それというのも、僕が新宿御苑新宿門門扉に飛びついたその瞬間いろいろな大人人間が僕を止めにかかって来たのだ。そして門扉を越えようとしている僕にその場に集いし大人たちは皆同じことを叫んで引っ張った。
「やめろ、セコムかあるいはアルソックが来るだろ!!」
僕はそれによって抵抗も虚しく地面に落下した。地面に尻餅をついた。痛かった。掘られたのかと思った。そして当然のことながら、僕は境界は超えられなかった。境界の彼方とか、境界線上のホライゾンとかだったら多分この境界を超えることもできたんだろう。そう思うと僕は自分の力の無さを情けなく思った。僕にそのときわかったのは犍陀多の気持ちだけだ。蜘蛛の糸っていうのはこういう感じっていうことくらいだ。でも犍陀多の気持ちがわかったことで一つ理解できたこともあった。
犯罪は夜の闇に紛れてやるべきだ。
成功率が『絶対』になる、とは言わない。
でも、
「人事を尽くして天命を待つ」
『物事の成功』に対する可能性を上げるっていうのはそういうことだ。
僕はその時、期せずして犯罪者の気持ちを知った。
僕は新宿御苑の近くにあるマンボーで夜半まで時間をつぶして、深夜になってから再び新宿御苑新宿門門扉に向かった。LINEのクーポンを使ったからといっても僕の財布の中身はもう心もとないことになっていた。つまり、
今夜しかできない。
その紛れもない事実は、僕のことを追い詰めたが、でも同時に高めてもいた。
僕が、一歩歩くごとに新宿御苑新宿門門扉は近づいてきていた。
そして、最後の信号を渡った段階で僕は走り出した。
勢いをそのままとめることなく、僕は再度新宿御苑新宿門門扉に飛びついた。
すると、
ブスリ。
え?
この感覚は・・・?
僕が新宿御苑新宿門門扉にしがみついたまま下を見ると、自分自身の尻に何かの棒が刺さった。そしてその下になんか女の人っぽいのがいた。それを確認した瞬間、僕は新宿御苑新宿門門扉から落ち、またその場に尻餅をついた。
ほられたんだ。
今度こそ、そう思った。
しかも棒で。
確認するとそれは箒だった。
血は出ていなかったけど、
でも、
それなりにショックな出来後だった。
それなりにっていうかかなり。
「どうしてあんなことしたんだ?」
その場で尻餅をついている僕に対して後ろからそんな声が聞こえた。僕は振り返った、そして言った。「江戸東京野菜のピクルスと御苑ゆかりのオリーブ添え300円が食べたいんだ!」
そこには小柄な女性がたっていた。植物みたいな女性だった。
その女性は言った。
「いったい・・・デング熱になったらどうするつもりだ!」
「うるさい!デング熱が何だ!?江戸東京野菜のピクルスと御苑ゆかりのオリーブ添え300円が食べられるならデング熱になったっていい!例えそれで死んだって僕はかまわないんだ!」
その瞬間、その植物みたいな女の人に思いっきりビンタをされた。しかも往復ビンタだった。おうふくビンタだ。
そして植物みたいなその人は言った。
「馬鹿野郎!今このときもその病気で苦しんでいる人のことを考えろっ!?なんで何の悪いこともしていない善良な市民がデング熱にかかって苦しんで、お前みたいな死んでしかるべしみたいな屑がデング熱にかからなかったんだ!」
・・・。
『父さんにもぶたれたことないのに・・・』咄嗟にそのセリフが僕の頭をよぎった。その次に痛みが訪れた。痛かった。ジンジンとした。
「う、うう、ううう・・・、うわーん!」
僕はその場に突っ伏して泣いた。
本当に泣いた。
マジげっそりするくらい泣いた。
そして、どうせたたかれるなら、あんな植物みたいな人じゃなくて、ジュリア・チャンみたいな人に叩かれたらもっと明確に立ち直るきっかけにもなったのにな。
そう思った。
僕はソレまで将来にあまり大きな夢とか希望とかを持っていなかった。慎ましやかな自分の日常に満足していたし、それに一週間に一二回程度新宿御苑に赴いて「江戸東京野菜のピクルスと御苑ゆかりのオリーブ添え300円」を食べれればよかったのだ。
でも人生は何が起こるかわからない。
楽しいことも悲しいことも人生は提供してくれる。
今度のことで、フォレスト・ガンプが「チョコレートの箱」に例えたそれの意味が少し、少しだけこんな若輩な僕にもわかった気がした。
ところで、デング熱の正式なワクチンはまだ無い。そのデング熱は僕の人生から新宿御苑と「江戸東京野菜のピクルスと御苑ゆかりのオリーブ添え300円」を奪った。
でも、
その代わりデング熱は僕に将来も示してくれた。
僕は将来、科学者になりたい。
そうしてデング熱のワクチンを作りたいのだ。誰のためとかそういうのはどうでもいい。僕は「江戸東京野菜のピクルスと御苑ゆかりのオリーブ添え300円」を定期的に食べたい。それだけだ。それ以外に何も必要ない。夢なんてそんなものだ。それに僕の頭は、あんまり大きなことを考えるようにできていない。
でも今度の小学校のPTAの作文発表ではこのことを書こうと思った。
ネタができた。
そうして将来はジュリア・チャンみたいな人と結婚できたらいいな。
そうも思った。
そんな訳で、こんな僕にも夢ができた。
デング熱にその点はちゃんと感謝しなくてはいけない。
そう思う。
デング熱のことを考えたらこうなりました。