第7話 難民と徴兵と生活保障
【レーフェンスシティ 市街地】
夜のレーフェンスシティ。わたしは娘(=パトラー)の部下、リーク中将と共に夜のレーフェンスシティを歩いていた。
レーフェンス州は今や連合政府の支配下にある。さすがにわたしとプランナーさんだけでは危険すぎる。もし、捕まれば人質にされかねない。
北西に商業都市ポートシティがあるレーフェンスシティは大きな都市だ。たくさんのビルが立ち並び、色取り取りの光が、夜の街を美しく輝かせている。
「ライト副議長、プランナー氏と共に飛空艇着陸場でお待ち頂ければ幸いなんですが」
「いや、わたしも行こう。……プランナーさんの娘とは知り合いだからな」
危険は承知の上。わたしの目的は、プランナーさんの娘を助け出すことはもちろん、卑劣な財閥連合の悪事を暴くこともあった。言い逃れ出来ない証拠を掴み、元老院議会から財閥連合議員を追放させる。その目的もあって、私も同行していた。
……それと、もう1つ、“ある目的”もあった。これはあまりいい話ではないが…… わたしはリーク中将をチラリと見る。新任の中将、か……
「……ライト副議長、アレを!」
「…………!」
しばらく歩いていると、リーク中将が向かう先の交差点を指差す。交差点に架けられた歩道橋の上に2人の女性がいる。片方は黒いレザースーツに赤茶色の髪の毛、同じ色をした瞳の若い女性。もう片方はグリード第4女子高の制服を来た少女。プランナーさんの娘だ。
「アレは連合政府の“クローン兵”です」
「その横にいるのがプランナーさんの娘だ」
わたしたちは交差点に架けられたクロス状の歩道橋に上り、そっと2人に近づいて行く。交差点の中心にいた2人もわたしたちに気が付く。
「元老院副議長のライト、政府特殊軍中将リール。……ということはパトラーとクラスタはポートシティか」
「すぐにその子を放すんだ!」
わたしはハンドガンを、黒いレザースーツに肩や首回りに同色の装甲を装備したクローン兵に向ける。彼女は背に白いマントまで羽織っている。……この人、クローン・ソルジャー(=クローン兵)ではなく、クローン・コマンダー(=クローン将校)ではないか?
「…………。……君たちが人質の取り引き人か」
そう言うと、そのクローン・コマンダーは両手に銀色の短い棒――グリップを握る。グリップのスイッチを入れると、片方のグリップからは真っ赤な熱気を伴った火炎ソードが現れる。片方のグリップからは激しい電撃を散らせる電磁ソードが現れる。
しまったっ! このクローン・コマンダーは、かつて政府特殊軍将軍のビザンティア将軍を殺害したコマンダー・ライカ中将だ! この街の支配者だ!
「将軍、プランナー氏の娘さんを連れてお逃げを!」
「出来るかな? コマンダー・コルボ准将が今頃、君たちの乗ってきた飛空艇をぶっ壊しているかもね」
「…………!?」
まさか、わたしたちがここに来たことはもうバレていたのか!?
コマンダー・ライカは電磁ソードを戻し、懐から小型通信機を取りだす。スイッチを入れると、青色の立体映像が表示される。立体映像の主もクローンだ。彼女が恐らくコマンダー・コルボ……
[あっ、コマンダー・ライカ中将、丁度よかったです! 任務通りプランナーは捕まえ、飛空艇は破壊しますよ! ……で、相談なのですが、その飛空艇はどこにあるんですか?]
「なにっ!? まだ捕まえてなかったのか!? …………!」
コマンダー・ライカはさっと通信機を切ると、それを懐に戻す。再び電磁ソードを取りだす。この間にプランナーさんの娘はわたしたちの後ろに隠れる。
「……ぶっちゃけ、プランナーとその娘には用はない。用があるのは、救助者さ」
そう言うと、彼女はいきなり飛びかかってくる。その途端、リーク中将がわたしの前に飛び出し、手をかざす。突然、コマンダー・ライカは空中で何かに弾き飛ばされ、歩道橋に叩き付けられる。
「ふっ、ぐっ!?」
コマンダー・ライカは顔を抑える。鼻から血が垂れていた。
「お前っ、パーフェクターか! ……そういえば聞いた事があるぞ。“難民徴兵”でリークという名のパーフェクターがパトラーの兵団に加わったって!」
「……そりゃどうも。俺はシールドのパーフェクターだ」
……難民徴兵は元老院で可決された悪法だ。正式名称は“難民の協力及び救済に関する法律”。年々増え続ける戦争難民。その人々を救済するという名目の徴兵だ。軍に加われば、生活と戦後の救済を保障してもらえる。……言い換えれば、戦えない人、志願しない人は見捨てられる。
この悪法の下、国際政府は減少した兵員を補充した。リークはその1人だ。彼以外にも、何千人と若い人々が軍人となった。
「さぁ、来いよ。ライカ」
「若いのに、怖くないの? 君、私より年齢、下でしょ?」
「…………」
コマンダー・ライカが今度20歳になる。他方、リークはまだ18歳だ。元々はグランド州南東部に住んでいたが、戦争で家を失ったらしい。家を失った後に首都へ逃れてきたが、生活補助を受ける事はできなかった。それで……
「ライト副議長、プランナー氏の娘さんを連れ、先にお逃げください」
「だが、――」
「正直に申し上げます。――邪魔です」