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黒い夢と白い夢Ⅳ ――動乱の世界――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 貪欲の利権 ――政府首都グリードシティ――
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第6話 自然の破壊者たち

 大きな利権は、例えるなら、それは悪魔だろう。


 莫大な利権は、人を誘惑し、魅了し、狂気を呼び覚まさせる。


 貪欲な利権は、常軌を超えた道に、人を引き込む。


 強欲な利権は、思わぬところで、人を悲劇に陥らせる。


 利権という名の不可視の悪魔は、罪なき者を、不幸にする――

























































 【政府首都グリードシティ 元老院議事堂】


 私は椅子にふんぞり返り、脚を組みながら話を聞いていた。


「連合軍の脅威は増大! 彼らの常軌を逸脱した攻撃によって、毎日どこかで犠牲者が生まれている! 我々の使命は、卑劣な反乱軍――連合政府を叩き潰し、戦争に勝つことです!」


 政府軍人カーコリア中将の弁論。拍手と賛同の声が上がる。――と同時に反対の野次も飛ぶ。私もどちらかといえば、反対の立場だ。

 カーコリア中将は私の兵団に所属する軍人じゃない。3週間前、不信任案が出され、否決された政府特殊軍女性将軍クェリアの部下だ。


「増大する連合の脅威に対抗する為、新たなる我々の活動拠点として、ホープ州ハーベスト郡に政府軍の軍用基地設立案をここに提案します!」


 ハーベスト郡というのは自然豊かな地方だ。その自然を破壊し、政府軍の基地を作ろうとしていた。ハーベスト郡より東にあるテトラル軍事基地のバックアップらしい。

 この軍事基地設立は連合軍の脅威に対抗するためじゃない。どちらかと言えば、“財閥連合”という巨大民間企業の利権が深く関わっていた。


「…………」


 私は財閥連合選出議員たちがいる方をチラッと見る。財閥連合選出の元老院議員トーテムがニヤニヤしながら議会の動向を眺めていた。

 基地設立となると、その工事は財閥連合が委託することになっていた。――その際、莫大なおカネが財閥連合側に渡される。それが、彼らの狙いだった。


「――ハーベスト地方は自然が豊かなところです」


 気が付けば、ハーベスト地方の長官・プランナーさんが演説を始めていた。初老の男性で、かつては元老院議員だった。


「わたくしと傘下の警備軍は、長年、ハーベスト地方の大地と自然を守って参りました。特には連合政府と対話し、その結果、ハーベスト地方への多くの攻撃が避けられて参りました。しかし、今、その自然が大きな脅威に晒されております。それは昨日、元老院議会に提出されたハーベスト軍用基地設置案によるもので御座います。わたくしは驚きと怒りを隠せません。まさか、国際政府によってハーベストの自然が破壊されようとしているのですから!」


 プランナーさんも気が付いていると思う。この軍用基地設置案が財閥連合が出した案であることに。そして、それは市民を守るためのものでなく、自分たちの利権の為である事に。

 実際のところ、ハーベスト地方に軍用基地を造ったところで、全くと言っていいほど、意味はない。ハーベスト地方の付近には特に大きな都市もない。連合軍もほとんど攻撃をしない地域だ。

 そもそも、ハーベスト地方に軍用基地を造るのも、財閥連合の工事が安全に進められるから。そして、“基地としての意味がほとんどない”からだ。


「“連合政府支持企業の財閥連合”さんは利権に貪欲だな」


 私の横に補佐官として座っているクラスタが小さな声で言う。そう、財閥連合は事実上、連合政府の支持企業の母体だ。

 連合政府を支持する企業は全部で6つ(6つの内、4つは崩壊したケド)。その6つの企業は、元々は財閥連合傘下の企業だった。今も、裏で繋がっているらしい。


「本当に“意味のある軍用基地”を造ったら、連合政府との関係が悪くなるもんね」


 そんな会話をしている内にプランナーさんの演説が終わる。この議案は出されたのが最近と言う事もあり、通るのは難しいかも知れない(まだ、財閥連合の賄賂とかが回りきっていない)。

 私たちは席を立ち、元老院議会を後にする。投票は明後日だった。さて、それまでに財閥連合はどれだけの賄賂を回すか―― 明日の議会やロビーでプランナーさんがどれだけ多くの議員に訴えかけられるか――





 事件が起きたのは、それからすぐだった。


「えっ?」


 私のオフィスで事件を話すプランナーさんと私のお父さん。


「部屋に戻ってみたら、――」


 プランナーさんは震えながら話す。なんでも、彼の孫がいなくなったらしい。孫は2人。16歳の少女と12歳の少年。その2人がいなくなった。

 そして、一番問題なのは、不審なメール。『孫の女を返して欲しければ、レーフェンスシティに来い。孫の男を返して欲しければ、ポートシティに来い。なお、明日中に来なかった場合、孫の命はない。下手なマネをした場合、即座に孫を殺す』、という内容だったらしい。


「プランナーさんの孫が……」

「す、すぐにレーフェンスシティとポートシティに向かわねば――」


 プランナーさんが私たちに背を向け、立ち去ろうとする。それをお父さんが何とか留まらせる。


「プランナーさん、少し落ち着いてください」

「し、しかし、ライトさん、急がねば、孫の命が」

「分かっています。しかし、あなた1人だけ乗り込んでも殺される可能性が高いです」


 ……今、プランナーさんが殺害されれば、例の軍用基地設置案が元老院議会を通過するだろう。もし、攫った人間が財閥連合だったら、プランナーさんをおびき寄せて殺すことも十分に考えられる。


「なるほど、それで私たちのところに」

「軍を動かせば、プランナーさんの孫たちは殺される。だから、ここは少数で動くしかない」


 お父さんがプランナーさんを椅子に座らせながら話す。普段は穏やかで落ち着いているプランナーさんなんだけど…… 孫を攫うなんて、財閥連合も卑劣になったもんだ。おっと、彼らが卑劣なのは前からか。


「――二手に分けた方がよさそうだな」


 今まで黙って見ていたクラスタが言う。


「片方はレーフェンスシティ、もう片方はポートシティ。4人全員でレーフェンス、ポートシティと行っている時間は、正直厳しい」


 確かに片方で足止めされたり、何らかのトラブルに巻き込まれたら、もう片方が間に合わなくなる可能性も出てくる。まさか、申し訳ないケド、1人は諦めてくれ、なんて口が裂けても言えない。だったら、4人を二手に分けて、助けに向かう方がいい。


「あ、それと“リーク中将”も連れて行こう」

「……リーク中将?」

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