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黒い夢と白い夢Ⅳ ――動乱の世界――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 戦乱の弱者 ――産業都市グランドシティ――
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第5話 戦争の執行人

 コスモネットが血を吐きながら、倒れる。彼の身体から煙と静電気が僅かながらに上がる。残虐なスライムの身体から、手が引き抜かれる。


「残念だったな」


 装甲で覆われていない首から手を引き抜いたパトラーが一言呟く。彼女は冷たい瞳で、死んだコスモネットを見下しながら立ち上ると、脱がされた衣服を身に着ける。

 ……アレは気絶したフリだったらしい。気絶したフリをして、コスモネットが接近して来るのを待っていた。彼が近づいたと同時に、魔法発生装置を内蔵したハンドグローブで彼の首に手を突っ込んだ。そして、強烈な電撃を彼の体内で発し、連合の中将を殺した。


[……想定外。コスモネット中将の生命反応消滅。……グランドシティ内に政府軍の侵入あり。外縁部の部隊は敗北。軍艦4隻と交信不可。墜落した可能性あり。勝利不可能。撤収する。ティリス、彼女らを殺せ]


 黒色の戦術ロボットはそう呟くと手を振る。その途端、空中に黒い穴が開き、そこから6体のバトル=メシェディが飛び出してくる。召喚魔法……!

 バトル=メシェディを召喚した新型の戦術ロボットは黒いマントを翻して、その場から去って行く。撤退すると言っていた事からして、恐らく逃げ出したのだろう。


「んー、コスモネットも死んじゃったか」

「…………!」


 スライムの主が死んだ事で、操られていた女性たちも死んだ……が、その1人がゆらりと立ち上がる。しかも、彼女、黒いコウモリのような大きな羽まで生えている。


「あたしはディランスに雇われた賞金稼ぎの1人だよぉ?」


 ティリスとかいう女性はそう言いながら、空中に飛び上がる。あの女、淫魔サキュバスか。人間女性とよく似た姿をした魔物。


[攻撃セヨ!]

「…………!」


 バトル=メシェディが背中に装備したナイフを引き抜き、私たちに向かって来る。パトラーはナイフを、ハンドグローブを着けた手で防ぐ。そのまま、強い電撃を流す。ナイフもバトル=メシェディも金属製。強烈な電流が流され、機能を停止する。

 私は剣でナイフを弾き飛ばすと、その頭に剣を突き刺す。そのバトル=メシェディは火花と破片を散らしながら、床に倒れる。


[破壊セヨ!]


 他のバトル=メシェディも襲い掛かってくる。私は剣で、パトラーはハンドグローブで魔法を駆使して戦う。

 バトル=メシェディは柔軟な動きをする人間型軍用兵器だ。ハンドガンやマシンガンなどといった銃火器とは相性が悪い。銃弾を避けられ、中々倒せない。だが、剣や魔法なら攻撃を当てやすく、倒しやすかった。


「ふぅん、政府将軍はさすがだね」


 サキュバスの賞金稼ぎはバトル=メシェディが倒されつつあるのを見て、飛んで逃げる。彼女は所詮、賞金稼ぎ。コスモネットやディランスに忠誠心などない。

 バトル=メシェディは倒された。哀れな女性たちの死体に混ざって、動かなくなった機械兵の身体。そして、コスモネットの死体――


 それにしても、ここの連合軍、機械の兵士だけじゃなかったな。このグランドシティ防衛師団本部要塞に入った時に、人間の兵士もいた。そして、賞金稼ぎのティリス。

 ディランスは世界銀行「マネー・インフィニティ」の代表。莫大なカネを持っている。そのカネで賞金稼ぎや傭兵を雇っているのは、前々から知っていたが……


「私は、守れなかった……」


 パトラーは死んだ女性の1人をそっと抱きしめる。私はそれをぼんやりと眺めていた。……最近、殺された民間人を見ることが増えてきた。


「…………」


 戦争が長引くにつれて、こういう目に合う人は増える。戦争が始まって、賞金稼ぎや傭兵の数は倍増した。そして、彼らは連合政府のマネー・インフィニティやバトル・ラインと結びついて、合法的に“こういったこと”を繰り返している。

 非合法でも、彼らを取り締まる者がいない。戦争で地域と社会を守る警備軍の多くが、特殊軍に組み込まれた。無法地帯と化しつつある地で、海賊や賞金稼ぎの犯罪が横行しつつある。


「クラスタ中将、グランドシティの連合軍は敗北しました」

「ご苦労、ライポート准将」

「しかし、周辺地域にはまだ多くの残党が残っています。逃げた新型戦術ロボットのバトル=タクティクスが軍を整えているとの情報もあります」

「すぐに部隊を向けろ。指揮官はリーク中将とレイザ中将を」

「イエッサー!」


 ライポートが去って行く。これからまた戦いだ。

 このグランドシティはこれで2度目の戦いとなった。州都ですらこの有り様。地方の辺境の地は何度も戦場となっている。その度に爆撃や戦闘で街は破壊されている。度重なる破壊で、復興の目途さえ立たない地方が増えている。


「ごめんっ……」


 パトラーは泣いていた。だが、戦争という名の狂宴が続く限り、巻き込まれ、無残に殺される弱い人々は今後も増える一方だろう。








































































 私も、パトラーも戦争の執行人。今日死んだ女奴隷のような“戦乱の弱者”を生むのに、一役買っている――

*「バトル・ライン」:連合政府支持組織の1つ。企業ではなく、アポカリプス大陸北部を支配する組織。

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