第35話 幸福の戦争
青色の空。白色の雲。眩しく輝く太陽。1隻の黒色をした小型飛空艇が、そんな空を飛ぶ。飛ぶ先にあるのは、巨大な空中要塞。銀色に輝く空中都市。
小型飛空艇は、小型飛空艇やスピーダーが飛び交う空中要塞の都市部へと入って行く。中央部付近にあるビルの飛空艇格納庫へと入る。
「全兵、敬礼ッ!」
左右に隊列を組んだクローン兵の部隊――青色の装甲服を着たギガ・フィルド=トルーパーたちは、入ってきた小型飛空艇に敬礼する。
私は小型飛空艇から降り、2列に整列した隊列の間を歩いて行く。後ろから親衛騎士の2人が付いてくる。
「ヒライルー閣下、お疲れ様でした」
「……ローリング」
私を出迎えるスーツを着た男性。ビリオン=レナトゥスの軍事総督ローリングだ。彼もやがて連合政府リーダーの1人となる予定だった。私は彼と共に施設内部の廊下へと入って行く。美しい鋼色をした廊下を歩きながら、ローリングは話を切り出す。
「ヒライルー閣下、臨時政府が設立されたそうに御座います」
「ええ、さっき聞いたわ」
「これで世界は臨時政府、連合政府、国際政府の3勢力に事実上、分裂しました」
私たちはエレベーターに乗る。これで遥か階下にある施設中枢へと向かう。窓からは美しい都市が見える。ビルが立ち並び、小型の飛空艇や戦闘機が飛び交っている。
「財閥連合は過去の犯罪、連合政府とのつながりを洗い出され、ポートシティの本社を臨時政府に差し押さえられたそうです」
「私がティトシティからここに飛び立つとき、財閥連合総督のコマンドが泣きついてきたわ」
パトラー率いる臨時政府は商業都市ポートシティを首都とした。あの財閥連合の本拠地がある商業都市を首都に選んだ。
彼女とクラスタらは財閥連合を激しく糾弾。連合政府とのつながりをあっという間に暴き、財閥連合本社を差し押さえ、同社の力を吸収してしまった。そして、財閥連合幹部らはことごとく追放された。
彼らはパトラー、クラスタ、その他大勢の清廉派議員の去った国際政府を、何とか政治的に制圧しようとしているらしい。
「もう、財閥連合は過去の時代の遺物でしかないわ」
「新しい時代の支配者は――」
「――私たちビリオン=レナトゥスの企業帝国よ」
「ほう、臨時政府もありますが……」
「…………」
*
「ローリング、素敵な光景よ」
「……我が社のクローン兵団ですな」
私はエレベーターの窓から、クローン兵員・要請エリアを見ていた。いつの間にかエレベーターは空中要塞の地下エリアを進んでいた。
窓に映る光景は素晴らしいものだった。赤い装甲服を着たメガ・フィルド=トルーパーたちが、隊列を組んで行進している。
「そういえば、30万体ほど出来そこないの劣等クローン兵がいますが……」
「デミ・フィルド=トルーパー?」
「ええ、そうです。それとフィルド=トルーパー、スーパー・フィルド=トルーパーも……」
「いいわ。全てアレイシアのキャプテン・フィルドに売りなさい。1匹、100万ほどで」
「……合計で3000億にもなりますが、そんなおカネ出しますかな?」
私は窓からクローン兵団を見ながら、キャプテン・フィルドのことを思い出す。あのクローン・リーダーは同じクローンを姉妹と思って大切にする。彼女は、私たちがクローンをどう扱っているのかも知っている。
「買うと思うわ」
買われなかったクローン兵は全て殺処分か、新型軍用兵器・生物兵器の実験台として殺される。それがよく分かっているハズ。私たちからすれば、都合いい顧客だ。これまでにも何度も大勢のクローン兵を売り続けてきた。
私たちはようやくエレベーターから降りる。下降だけでなく、横にもリフトのごとく動く便利なエレベーター。何度も曲がり、下がり、時には上昇し、ようやく施設中枢へとたどり着いた。
「殺し合えば殺し合うほど、私たちは利益を上げる。戦争は個人レベルじゃ不幸だけど、私からすれば、最高の幸福ね」
私は最高司令席に座り、大型シールド・スクリーンに映る新型軍用兵器・生物兵器のデータを見ながら、呟くように言った――
<<ビリオン=レナトゥス>>
空中要塞「ビリオン・ウロボロス本部」を拠点にする総合企業。リーダーはヒライルー。副リーダー(軍事総督)はローリング。パトラーたちがこれまで倒した連合政府支持企業の残留勢力を吸収・統合して組織拡大を図った。
「夢Ⅱ」で登場した「ビリオン」が前身。「ビリオン」崩壊後、同社の副リーダーであったヒライルーが「ビリオン=レナトゥス」として同社を再生させた(時期的には「夢Ⅲ」末ごろ)。
ビリオン・ウロボロス本部は「夢Ⅳ」末ごろに完成した。建設期間は20年。史上最大の建造物とされる。




