第31話 継げなかった白い夢
人間を永遠に奴隷とすることは、どんな人間にも出来ないだろう。
何千万もの機械を永遠に奴隷に出来ても、人間は出来ない。
いつしか、その奴隷とされた悲劇の弱者たちは、怒りを爆発させ、強者を滅ぼす。
弱者の逆襲が始まったとき、それまで弱者を虐げた強者は、終焉を迎える――
【希望都市ホープシティ】
ホープ州はほぼ制圧した。
[――とのことです]
「そうか、パトラーが……」
偉大な連合政府リーダーである余に残る脅威はパトラー=オイジュスだ。
今、あの女は大陸北西部(パスリュー州・テクノ州・フランツー州)、大陸南西部(グランド州・サフェルト州・ポート州)に“臨時統治機構”を設立しようとしている。
あの女は必ずや余の統治するホープ州へと攻め込んでくる。己の貪欲な利権を叶えようと、余と連合政府の大地に攻め込んでくる。
「バトル=タクティクス、パトラーの兵団を注意深く監視せよ」
[……ディランス閣下、パトラーの兵団よりも、ホープシティ民の方が脅威です。先日も反連合政府テロが発生しております]
「テロの関係者はどうした?」
[閣下のご命令通り、21名全員を公開処刑としました]
余の統治に不満がある者は、サフェルト州でもグランド州にでも去ればよいのだ。不満があるならば、ホープ州より出ていけばいい。……自分の力でな。
パトラー=オイジュスのような戦乱になれば真っ先に戦乱の弱者となるような下等な生き物が余に立て付くことなど、許しはせぬ。
「ホープシティに“人垣”を急いで作れ。それに反対する者は構わず射殺せよ」
[はい、ディランス閣下]
ふっふっふ、さぁ、パトラー=オイジュスよ、我がホープ州へと来るがいい。お前たちの侵略は悲劇を巻き起こす。何千もの戦乱の弱者が、戦いに巻き込まれて死ぬがな……
[…………]
◆◇◆
【ホープ州 テトラル本部】
私たちは不毛の大地の真ん中にある連合軍・テトラル本部へと接近する。大型飛空艇1隻、中型飛空艇5隻。合計で6隻の飛空艇から、何十機ものガンシップが飛んでいく。
テトラル本部は以前、私たちが激戦の果てに陥落させた大型施設だ。1ヶ月前、クリスト将軍はここで殺されている。彼を殺した連合軍の将軍や中将たちはもうここにいない。すでに連合政府首都ティトシティに去った。
私やクラスタはこのチャンスを逃さなかった。ホーガム将軍、スロイディア将軍、クディラス将軍、ジェルクス将軍と一緒にホープ州へと攻め込んだ。
「パトラー将軍、テトラル本部からの反撃です!」
テトラル本部要塞から砲弾が飛んでくる。何機かのガンシップが撃ち落される。私の乗っているガンシップだって何ら変わりない機体だ。いつ落とされてもおかしくはない。
怖くない、といえばウソになる。私だって、何度経験しても怖い。いつ死ぬか分からない。もしかしたら、この戦いで生き残れないかも知れない。だから、私は平和な世界の復活を願う。もう、こんな思いをするのはイヤだ!
「着陸地点です!」
「……行こう。ホープ州から戦いをなくすんだ!」
ガンシップ後方の扉が開き、私たちは戦場へと飛び出す。そのままテトラル本部へと走り出す。その途中には何万体ものバトル=アルファやバトル=ベータが待ち構えている。
私は物理シールドを張り、サブマシンガンの銃口を前に向け、黒い連合の兵団を駆逐していく。反撃の銃弾も飛んでくる。物理シールドを張った身体に痛みが走る。もう何千回と経験した痛みだ。それでも、痛いのには変わりない。
「そぅら!」
クディラス将軍もやってくる。長身で筋肉質な身体を持つ彼は、素手で機械の兵団を殴り壊していく。魔法で身体能力を強化していても、あの戦い方は大変だろう。きっと、強い痛みを感じるハズだ。
「ぐぁっ!」
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
「うぐっ!」
でも、私たちが戦わないと、世界は黒色の連合政府に乗っ取られる。お母さんの希望は、私も継げなかった。結局、こうやって戦っている。
「かかれ!」
「うわあああっ!」
[破壊セヨ!]
世界は戦争という道しか辿れなかったのだろうか? いや、きっと違ったハズだ。もっと他の手段があったハズだ。お母さんは他の手段を取ろうとした。
でも、世界は違った。国際政府も、連合政府に付き従った大企業たちも、お母さんとは違う道を取った。
[全軍、進撃を止めろ]
「ぐあぁっ!」
「負傷者多数!」
[破壊セヨ!]
みんな、戦争を選んでしまった。史上最悪といわれるラグナロク大戦。それを始めてしまった。止まらない泥沼の戦争だ。
銃弾が雨あられのごとく飛び回り、部下たちが血を流して倒れていく。もはや、見慣れた光景になってしまった。
「もう少しだ!」
[攻撃セヨ!]
「このっ!」
[かかれ]
「浮遊戦車だ!」
私たちは市民を守るという政府の使命を果たせなかった。この戦争で、何千万もの市民が死んでいった。リークのように、命からがら首都グリードシティに逃げてきた人でさえ見捨てている。戦争という狂宴が、彼を見捨てる正当な理由を作ってしまった。若い彼を軍人にしてしまった。
「ごめん……」
私は何かに対してポツリと呟いた。その声は、虚しく銃撃音と砲撃音の中に消えていく。もはや、声は届かない。
「別方向より攻撃していたホーガム将軍の部隊が、テトラル本部を制圧しました!」
私たちに出来ることは、少しでも早く戦争を終わらせることだけだ。そして、夢となってしまった平和な世界を取り戻そう――




