第30話 友情の犠牲
【アイス・クリスタル城】
私を乗せたガンシップがアイス・クリスタル城に着陸する。ここにピューリタンが捕えられているらしい。ガンシップから降りると、アイス・クリスタル城へと入る。
「パトラー将軍、お気を付けください」
「分かってる」
パイロットの言葉に一言返す。ジェルクス将軍の調べでは、すでにここの連合軍の大部分が去ったらしい。いるのは僅かな数のクローン兵と指揮官のケイレイト。
……実はケイレイトとは仲がよかった。だからピューリタンのことも、頼めばすぐ返してくれそうな気はするんだけどな……
アイス・クリスタルの城に入ると、早速広い場所に出た。メイン・ホールだ。ホールの真ん中に、2階に上がる為の大きな階段がある。
階段も壁も全てクリスタル=レンガで造っているらしく、アイス・クリスタルの城は美しい宮殿だ。遥か昔の人々が、聖堂として使っていたらしい。
「ようこそ、パトラー=オイジュス将軍」
階段の上から、2人の女性が姿を現す。黒色のレザースーツを着た2人の女性。ケイレイトとコマンダー・レクだろう。
「……ピューリタンを返せ」
「それは出来ないよ。あなたは連合政府リーダーの1人にして七将軍の地位にあるケイレイト将軍によって、ここで殺される」
「…………」
ケイレイトは複雑そうな顔でコマンダー・レクを見ていた。あの様子だと、ケイレイトも下手にピューリタンを解放出来なさそうだ。もし、そんなことをしたら、あのコマンダー・レクがなにをし出すか分かったもんじゃない。
「……私は連合政府の将軍。あなたは国際政府の将軍。相反する存在なんだよね。だから、戦うしかないんだ……」
ケイレイトは腰に装備していた鋭い刃を持つブーメランを引き抜く。その顔には、ハッキリと戦いたくない意志があった。
私は剣を引き抜く。私も戦いたくない。でも、……戦うしかない。もし、私がケイレイトを助けたら、その逆でも、コマンダー・レクや外のガンシップで待機している兵士たちは、どんな反応をするだろうか――?
「……なんで……」
ケイレイトは次の瞬間、空中に飛び上がる。途端に風が室内に吹き荒れる。ケイレイトは風のパーフェクターだ。コスモネットと同じ特殊能力者。
風に乗った彼女は、私に向かって来る。鋭い鋼色のブーメランが、私の首を刈り取ろうとする。私はそれを剣で防ぐ。もう、慣れた手つきだった。この戦争で、何度も繰り返してきたこと。
戦争は、友情さえも引き裂くのか―― 国際政府と連合政府の戦争は、全てを壊していく。黒い夢が、世界を壊していく。
聖堂のメイン・ホールを飛び回るケイレイト。彼女の放つ風魔法。強烈な渦を巻いた竜巻がいくつも起こる。私の身体が持ち上げる。風に乗ったブーメランが飛んでくる。
私は素早く腕に取りつけた端末を操作し、薄い青色のシールド・ガードを広げ、飛んできたブーメランを防ぐ。
「…………」
やるしかない。私は手を振る。一筋の閃光。電気の槍がケイレイトの胸を一瞬で貫く。飛び回っていた彼女は血を僅かに吐いて壁に激突する。そのまま、床に向かって転落する。
私はコマンダー・レクの目の前に着地する。彼女はケイレイトの敗北に驚き、そのまま階段を下りていき、床に倒れたケイレイトの腕を掴んで逃げていく。私は追撃しなかった。
「ケイレイト……」
もし、あの攻撃でケイレイトが死んでいたら? もし、壁に激突した衝撃で死んだら? もし、床に落ちた際に首の骨が折れて死んじゃったら? ――私は友達を殺したことになる。
ケイレイトが死んだかどうかは分からない。でも、数日もすれば分かるだろう。彼女もディランスと同じく連合政府リーダーの1人だ。彼女が死ねば、必ず分かる。
そして、私は国際政府の英雄として名を上げる。私がイヤでも、私は“連合軍将軍を殺した英雄”になる。友達を殺した罪と敵将を殺した功を、一生背負わなきゃならない。
私は二階へと通じる階段にそっと腰掛ける。急に疲れと虚しさが込み上げてきた。
「私はどうすれば……」
戦争が続く限り、私は人を殺さなきゃならない。時には直接殺さなきゃいけない。直接殺していなくても、間接的に殺している。
グランドシティを攻撃した時だって、戦いに巻き込まれて死んだ人がいる。私がコスモネットと直接対峙しなければ、あの女性たちは死ななくて済んだかも知れない。
ホープシティ上空のコア・シップで私はナード議員を買収し、アイロートに全部責任を押し付けた。本当は、ナード議員やトーテム議員だって仲間なのに……
シリオード大陸では私とクラスタが強引に財閥連合のフロスト支部を調査した。その結果、私は不幸の真実を知ってしまった。お母さんが私に教えたくなかった真実だ。しかも、ウェスベ将軍はそのせいで軍を去った。
戦争が終わらない限り、こんな悲劇はずっと続くだろう。弱い人が、自然が、友情が犠牲となっていく。
私は明日も戦うだろう。これからもずっと戦うだろう。もっと不幸な現場を見るかも知れない。それでも、戦い続けるだろう。そして、いつか戦争の執行人である私自身も――




