第27話 救済の援軍
【産業都市ポートシティ ポート州庁 ポート議会】
「それは、あり得ない!」
甲高い声で言うトーテム議員。案の定、財閥連合の妨害が入ってきた。財閥連合としては、どんな形であれ、ポート州軍が連合政府と敵対するのは防ぎたいのだろう。なぜならば、ポート州軍が連合政府と敵対すれば、財閥連合と連合政府の関係が悪くなるからだ。
財閥連合はあくまで表向きは中立。ポート州軍は国際政府派だが、事実上、中立を保っている。これが幸いして、ポート州は連合軍の侵略を受けていない。
「ポートシティ精鋭師団は警備軍! 警備軍が侵略目的で使われるのは誠に遺憾!」
「これは物騒なことを…… わたしたちは、あくまで人道支援を要請しているのです」
「いやいや、メサイア長官、騙されてはなりませんぞ。今や、第5・7・9・11兵団は西部戦線で侵略戦争を行い、第A・B・0兵団は東部戦線で連合軍と戦っております。第1・2・12兵団は首都の防衛。第8・10兵団はパスリュー州にて侵略戦争。要するに、ホープ州へ回す兵団がないのです」
トーテムの言った事に、間違いはない。
クラスタ中将率いる(本来の指揮官は娘のパトラーだが)第5・7・9・11兵団は西部戦線にて連合政府勢力を排除している。
クォット将軍、ホーガム将軍、クェリア将軍の第1・2・12兵団は首都の防衛を行っている。12兵団はさておき、その他の兵団を動かせば、首都の守りが手薄になる。
軍事総督フィフス、副軍事総督ファルズ、特殊軍長官レイズの率いるA・B・0兵団は東部戦線で連合政府のグランド・リーダー、ティワード総督率いる軍勢と戦っている。
ピューリタン将軍、ジェルクス将軍率いる第8・10兵団は大陸北西部にて七将軍ケイレイトと戦っている。
ホープ州へ回す兵団はすでにないのだ。だから、こうやってここにわたしが来ている。人道支援のために。それを侵略戦争と置き換えているのが、財閥連合のトーテム議員とセルアだ。
「ポート州軍の使命はポート州の市民を守ることですな……?」
「ふむ……」
「お待ちください。連合軍の追手はすでに大幅に減っております。中型飛空艇1隻差し向けるだけで、充分に戦えるのです。我々、政府の人間の使命は市民の救済のハズです!」
「むむっ」
メサイア長官は迷っておられる。彼も援軍を差し向けたいのは山々なのかも知れない。だが、財閥連合幹部の反対で、決断することが出来ない。
結局、同じような議論が続いた果てに、メサイア長官は決めた。――援軍は送れない、と。その決断が下された時、トーテムらはニヤリと笑っていた。
「ライト副議長」
ポート州庁から去ろうとした時だった。後ろから声をかけられる。声をかけたのは、メサイア長官だった。彼はわたしとクォット将軍に近づく。
「やはり、援軍は送りましょう」
「…………!」
「ただし、こちらが送れるのは1000名ほどの兵と武器だけです。ポート州軍の将校を送る事は出来ません。そこまでやると、ポート州議会が主導でやったことになりますので……」
「いえ、充分です。ありがとうございます」
わたしは深々と頭を下げる。これで、ホープ州の難民を助ける事が出来る。事が済んだ後の言い訳は……大丈夫そうだ。わたしとクォット将軍はお互いを見合い、ニヤリと笑った。
◆◇◆
【サフェルト州 ビーズニー山脈 キャノー峡谷】
草木を掻き分け、岩山のビーズニー山脈キャノー峡谷へとやってくる連合軍。こうなってくると、もはや執念だな。いや、ただ単にディランスの命令を忠実に守っているだけか。
俺は政府軍人として、市民を守る。自分に課せられた使命を全うするだけだ。さぁて、最期の戦いになるなこりゃ。
[全軍、進め]
浮遊戦車に乗ったバトル=アテナが命令を下す。その浮遊戦車の周りには何百体ものバトル=アルファが歩いている。相手は何百体もいるのに、こっちは20人ほどしかいねぇ。不公平だわ。
バトル=ベータや他の浮遊戦車がないところを見ると、やはり足場が悪すぎて進軍を断念したのだろう。バトル=ベータは4足歩行をする軍用兵器だ。こういう足場の悪いところへの進軍はしずらい。
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
アサルトライフルを持ったバトル=アルファが発砲しながら押し寄せてくる。こちらも一斉に応戦を始める。たちまち銃撃戦になる。俺も方天画戟を振り回し、迫りくるバトル=アルファ軍団を斬り倒す。勝つことは出来ない。今の俺に出来る事は、時間稼ぎだ!
……かつて、俺はグランドシティで戦った。その時も時間稼ぎをした。その時は、クリストが援軍に来てくれたが、彼はもうこの世にいない。
「クソッタレ!」
俺はそう吐き捨てると、バトル=アルファの身体を斬り倒していく。親友はもういない。コイツらの仲間に殺された。
しばらく戦った後、チラリと背後を見る。部下はほぼ全員、戦死していた。ガトリングガンを持ったステラ少将が、俺の後ろへとやってくる。
「バシメア将軍、部下は全滅しました。こちらも、もう銃弾がなくなります」
そう行った時、激しい射撃音と共に連射を続けていたステラ少将のガトリングガンが止まる。彼はそれを投げ捨てると、ハンドガンを取り出し、それで応戦する。だが、まだバトル=アルファは100体以上はいる。
その時、方天画戟を振り回す俺の手に銃弾が当たる。激しい痛みと共に、方天画戟は土の地面に転がる。まだまだっ! 俺はハンドガンを手にする。
「うっ、ぐぁっ!」
ハンドガンで応戦していたステラが苦痛の声を上げて倒れ込む。彼の身体を、バトル=アルファの銃弾が貫いたようだ。長らく生死を共にした部下も死んだ。
俺はステラを殺したバトル=アルファを撃ち倒すと、弾切れになったハンドガンを投げ捨てる。最期の武器も失った俺は、素手で歩み寄るバトル=アルファを殴り壊す。
[早く殺せ]
戦車の上からバトル=アテナが命令する。俺はソイツを目がけて走り出そうとする。その時、空に何か現れる。政府軍の中型飛空艇だ。援軍が来た!
俺はついニヤリと笑ってしまう。ほれ見ろ、援軍がまた来たわ! だが、そんな俺の身体を1発の銃弾が撃ち抜く。血が飛び散る。俺は地面に手をついて倒れる。丁度そこに、方天画戟があった。
「ちょっと、遅せぇな」
苦笑いしながら、長年使って来た愛用の武器を握り締め、それを勢いよくバトル=アテナを目がけて投げる。槍は正確にバトル=アテナの首を貫いた。
だが、その途端、何発もの銃弾が俺の体に浴びせられる。俺の身体は血を噴き散らし、膝をつく。続けて正面から地面に倒れる。もう、身体が動かねぇわ……
クリスト、ステラ…… また会えそうだ――




