第26話 援軍を求めて
【産業都市ポートシティ】
わたしは早々に首都グリードシティを発つと、商業都市ポートシティへとやってきた。財閥連合の本拠地があるこの大都市は国際政府の二大副首都の1つとされてきた(ちなみにもう1つは、テクノシティだがクェリアの暴挙で破壊された)。
「凄い都市ですな。経済の中心都市といわれるだけはあります……」
同乗していたクォット将軍が言う。彼は一応、わたしのボディガードとして付いて来て貰った(クォット将軍の兵団指揮権は今、ホーガム将軍が持っている)。
ポートシティには高層ビルが並び、首都グリードのように建物の間を複雑に歩道が入り組んでいる。空中には何百台ものスピーダー・カーが飛び交っている。
この都市の中心にポート精鋭師団本部とポート市役所・ポート州庁がある。そして、巨大な財閥連合の本社も。
クォット将軍がポート精鋭師団本部のエアポートに小型飛空艇を着陸させると、わたしたちは小型飛空艇から降りる。
「ライト副議長、クォット将軍、お待ちしておりました」
ポートシティ長官のメサイアさんが出迎える。黒髪に同色の瞳をした彼は、温厚な清廉派の行政官として名は知れ渡っている。わたしの尊敬する人物の1人だ。46歳の時に当選して以来、2期渡ってポート市長の地位にある。
「我らもお待ちしておりましたぞ、ライト議員閣下……」
「…………!?」
別方向から、黒いスーツを着た男たちが現れる。財閥連合のバッジを付けている。この男は確かセルアという財閥連合議会の議員だ。彼の後ろには元老院議員のトーテムまでいる。早くも嗅ぎつけたか。
「ライト議員がここにいるとは、偶然ですなぁ」
「偶然とは恐ろしい、フフッ」
……“偶然いたらしい”財閥連合幹部と共に、わたしたちはポート州庁へと入って行く。さて、今回はどんな妨害が入るやら……
◆◇◆
【サフェルト州 ビーズニー山脈】
俺は方天画戟と呼ばれる槍状の武器を使って何千ものバトル=アルファ軍団と戦っていた。槍の先端に電撃を纏わせ、スピーダー・バイクに乗り、素早く機械の兵団を突き倒していた。
[バシメアを、殺せ]
浮遊戦車に乗った指揮官用ロボットのバトル=アテナが命令を下す。何十体ものバトル=アルファやバトル=ベータが押し寄せてくる。俺は方天画戟を振り回し、黒いロボットどもを斬り倒していく。
クソッ、親友のクリストもコイツらに殺されたのだろう。俺は怨みを込めて倒していく。親友を失った悲しみを怒りに変え、機械の兵団を斬り倒す。
「将軍、限界です! 第4ラインに引き下がりましょう!」
「……そうだな」
俺は部下の言葉に従い、近寄ってくるバトル=アルファどもを破壊しながら徐々に下がる。敵はまだまだいる。これまで何千体と倒したが、次から次へと押し寄せてくる。キリがないな。
銃弾が嵐のごとく飛んでくる中を、俺たちは下がる。幸いにして山地だから、すぐに隠れる事が出来た。もし、平原なら多くの死者が出ていただろう。
「バシメア将軍、我々の力も限界です。サフェルト州に派遣された第11兵団と合流するのは後1日かかるでしょう。しかし、連合軍が我々に追いつくのは半日とかかりません」
ステラ少将が声を潜めて言う。やや離れているとはいえ、まだ大勢の難民がいる。彼らに聞かれちゃマズイことなのだろう。
「……バシメア将軍だけでもお逃げになっては……」
「俺は政府軍人だ。市民を守るのが使命だ」
俺はそう言って、その場を離れる。ステラ少将の言いたいことは分かる。俺は政府特殊軍の将軍だ。俺だけでもさっさと逃げ、後日、ホープ州の連合軍を叩き潰すというのも、1つの手だろう。だが、それは同時に、ここの難民を見捨てることになる。
どこかの女将軍(=クェリア)は敵を殺すことが使命だと考えているようだが、俺はそうではない。軍人の使命は、いや、政府の使命は市民を守ることだ。
だが、悲しい事に、それが分かっていない政府の人間は多い。それは、歴史を顧みても、同じことが言える。理想と現実は異なっている。
「政府の存在理由は、市民の保護のハズだがなぁ……」
俺は曇っている空を見上げ、ポツリと呟いた。自分たちが特権階級にあると勘違いしている議員や軍人。そういった人が、今の国際政府には多い、彼らに戦後の統治を任せるのは、気が引けてしまう。かと言って、連合政府はもっとメチャクチャだが……
「カナー准しょ――」
言いかけてやめた。カナー准将はさっきの戦いで戦死していた。残っている将官はステラ少将だけだ。兵士も30人ぐらいしかいない。さて、これでどうやって戦うというのか……
「バシメア将軍、連合軍が再び態勢を整えて、こちらへとやって来ているそうです」
「……そうか」
ステラ少将の報告にまた一段と憂鬱になる。連合軍の追手はまだ1000体近くはいるだろう(これでもかなり倒した方だが)。特にいい案もないが、行くしかない。
俺は重い腰を上げ、部下を呼び集める。恐らく、これが最後になるだろう。あの腐敗し、使命を忘れた国際政府の気が変わって、援軍を連れてきてくれると助かるんだがな……




