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黒い夢と白い夢Ⅳ ――動乱の世界――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第8章 政府の使命 ――サフェルト州――
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第25話 否決された援軍案

 ひとたび戦争という狂宴が始まれば、無数の弱者が悲劇を被る。


 このラグナロク大戦で死んだ弱者は計り知れない。


 死なずとも、財産を失った者、暴行を受けた者も無数にいる。


 そんな彼らを救う使命を帯びているのが、政府という統治機構だ。



 だが、今の統治機構はそれを忘れてしまっている。


 利権を貪り、権力闘争の場と化した元老院議会。


 強者を救い、弱者を見捨てる連合議会。


 今の統治機構に、弱者を救うことを望むのは、無謀なのかも知れない――





























































































 【サフェルト州 東部 ピーズニー山脈】


 俺は1ヶ月ほど、戦い続けていた。街や村を焼かれたホープ州各地の人々を逃がす為にだ。今、ホープ州はディランス率いる連合軍の大軍によって総攻撃を受けていた。それで、俺が連合軍と戦いながら、ホープ州の市民を、東のサフェルト州へと逃がしていた。


「バシメア将軍、さきほど元老院議会と連絡が取れました」

「そうか。それで、援軍は来そうか?」

「……第11・9兵団のパトラー将軍が、パスリュー州・フランツー州・テクノ州・グランド州・サフェルト州・レーフェンス州の長官――警備軍・南西将軍と警備軍・北西将軍に任命されました」


 部下のステラ少将が俺に報告する。パトラーか。本人の実力はさておき、11兵団の評判はかなりいい兵団だ。彼女がこのサフェルト州を含む大陸南西にやってくるといのなら、少し安心できる。それに、辞任したウェスベ将軍の第9兵団がパトラーの傘下になったのも、いいニュースだ。


「しかし、――」

「…………?」

「元老院議会は援軍を送れない、と」

「……そうか」


 俺はがっかりしながら言った。援軍を要求したのは、もう半月も前になる。審議が始まったのは、3日前。そして、その答えが……

 しかも、援軍とはいっても、要求したのは大型飛空艇1隻だけ。この大型飛空艇があれば、残りの難民を乗せ、サフェルト州へと送り込めた。


 俺は、俺の率いる第4兵団全部隊を使って何百万人もの難民をサフェルト州に送っていた。その為、第4兵団の飛空艇と将兵は、全て出払っていた。

 今、俺たちがいる場所はサフェルト州とホープ州の州境。一応、俺たちが最後の集団だった。それ以外の難民と部隊は既にサフェルト州に入っていた。

 俺はホープ州の多くの市民をサフェルト州へと逃がす為に必死で戦ってきた。特に、この数週間は寝る時間さえも削って連合軍の追撃を防いでいた。


「バシメア将軍!」

「なんだ、カナー准将」


 後ろの方からカナー准将がスピーダー・バイクに乗ってこっちに走ってくる。


「ディランスの部下たちがもう追いついて来ました!」

「…………!」


 もう追いついたのか。ここにいる難民の数は2万人近い。なのに、兵は270人ほど。追手の数とここの兵員。恐らく追手の数の方が多いだろう。戦いになれば、果たしてどれだけの間、時間を稼げるかになってくる。



◆◇◆



 【政府首都グリードシティ 元老院議事堂】


 私は第5、7、9、11兵団を動かし、南東部戦線の連合政府勢力を排除していた。南西部戦線と呼ばれるテクノ州、フランツー州、グランド州、サフェルト州、ポート州の5州だが、最近はだいぶ連合軍の勢力も落ちてきている。

 その原因は連合政府リーダーたちの死亡、ギャラクシアやコスモネットといった中将たちの死亡だろう。今、5州から連合軍を完全に追い出すチャンスだった。


「クラスタ中将、9兵団のティラス中将とロッド中将よりグランド州北部から連合勢力を完全に排除したとの連絡が入りました」

「よし、すぐにグランド州南部における連合勢力も排除しろと伝えろ。相手はほとんどが機械だ。もはや指揮官らしい指揮官もいない。1ヶ月もあれば、両州から掃討できるだろう」

「イエッサー!」


 ライポートは元気よく返事をして去って行く。ディランスが思いのほかバカなヤツで、私たちは助かった。あの愚かな連合政府リーダーは優秀な人材を使いこなせていない。有能なギャラクシアをシリオードで死なせてしまった。

 更に連合軍の名将と謳われるプロヴィテンス中将、アクセラ中将、フリゲート中将の3人も、ディランスの命令でホープ州へと向かった。彼は自分を守る為に、必死になっている。なんとかして、自身の本拠地があるホープ州全域を抑えたいのだろう。


 戦争勃発以来、長きに渡って激戦地となってきた西部戦線。そこから連合軍が消える。それは、その地における直接的戦いの終焉を意味していた(奪い返されたら、また逆戻りだが)。

 もう、ラグナロク大戦が勃発して3年が経った。泥沼化した大戦に、ようやく希望の光が見えてきたようであった。


「クラスタ中将!」


 突然、パトラーの父親が部屋に入ってくる。息を切らせているとこを見ると、ずいぶん早足でここへやってきたのだろう。


「ライト副議長、どうなさいました?」

「さきほど、バシメア将軍への援軍案は否決されました」

「……地方の地元民など知った事ではないんだろう」


 今の元老院議会の考えそうなことだ。ホープ州の人々がいくら死のうとそんなことは関係ない。そう考える議員は多い。国際政府のトップであるマグフェルト総統でさえもそう考えているからな。

 だが、私が自由に動かせる5、7、9、11兵団の将兵・飛空艇は全て出払っている。ライト副議長はバシメア将軍への援軍要請に来たのだろう。

 他の兵団も、今やここにいない。いや、クェリア率いる12兵団はここにいるが、彼女を向かわせれば、難民を殺しかねない。クォット将軍率いる第1兵団とホーガム将軍率いる第2兵団もいるが、彼らを向かわせると、首都の防衛が手薄になる。


「……1つだけ方法があります。ポートシティの警備軍です」

「ポート精鋭師団ですか!?」

「そうです、あそこの警備軍は財閥連合の拠点がある故、彼らの要望で戦争勃発後、急速に軍事力を増加させました」


 財閥連合も戦争で自分たちの財産や拠点を焼かされるのはごめんだと考えたのだろう。元老院議会で巧みに賄賂などを使い、ポートシティの警備軍の軍事力を増強させた。

 しかも、連合政府と裏で連絡を取り合っているのか、ポートシティだけは一度も戦火に巻き込まれていない。


「ただ……」

「……財閥連合の妨害、ですか」

「そうです。警備軍が了承しても、財閥連合が妨害し、結局間に合わなくなることが予想されます」

「…………。……分かりました。わたし自ら行きましょう。上手く、警備軍を説得し、財閥連合の妨害を乗り越えてみせます」


 そう言うと、彼はさっさとオフィスを後にする。元老院議院が彼のような人ばかりだと、国際政府もよかったのだがな……

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