第23話 ホープシティの戦い
【ホープ州 希望都市ホープシティ ホープ保安師団本部要塞 最高司令室】
「ディンター将軍、敵は100万を超える大軍です!」
装甲服に傷をつけた部下が俺に危機を伝える。その間にも、何度も爆音が鳴り響く。今、ホープ州全域が連合軍の猛攻に晒されていた。州都であるこの都市には、100万もの機械兵団が押し寄せてきていた。
指揮官は連合軍・七将軍のバトル=オーディン。部下に連合軍・九騎のアクセラ中将とフリゲート中将の姿まである。
「ちぃ…… 西部戦線で戦っていた連合軍が、このホープ州に押し寄せて来たってのかよ」
俺は唇を噛み締める。こんな時に限って、俺の率いる第7兵団はフランツー州だ。俺はたまたま、この都市に用があって、やってきていただけだ。
このホープシティにいるのは、ホープ保安師団だけだ。つまり、地元の警備軍。ホープ州というのは、大陸15州の中でも、辺境の地に分類される。それ故に、警備軍の規模も小規模だった。
俺は、厚い雲に覆われた灰色の空に目を向ける。黒色の軍艦が30隻も浮かんでいやがる。司令艦が5隻。コア・シップが15隻。ここまで大規模な攻撃を見たのは、久しぶりだ。
すでにクリスト将軍も、七将軍アヴァナプタとプロパネの率いる連合軍によって殺害されたという。彼の兵団も西部戦線のハズだ。封鎖区域テトラルの軍勢だけで守れるハズがない。
「オイ、誰か、首都に連絡を入れろ」
「イエッサー!」
俺は、深く息を吸い込み、それをゆっくりと吐きだす。クリストは国際政府の名将だ。4人しかいない四鬼将の1人だ。本当に強い男だった。それが、こんな呆気ない最期になるとは、な……
「西部戦線の第7兵団と第5兵団を、パトラー率いる第11・9兵団に組み込み、西部戦線の連合軍を駆逐しろ、とな」
「えっ?」
「それと、第7兵団と第5兵団にも、今後はパトラー将軍に従うように言っておけ」
部下はポカンとした顔をする。ま、そりゃそうだろーな。てっきり、援軍の要請かと思ったんだろう。だが、すぐに頷き、走り出す。
もう、ホープ州は手遅れだ。七将軍3人。九騎3人。これは、西部戦線を支える名将たちだ。それが、このホープ州に集結している。今更、援軍要請をしても、間に合うはずがない。
「へへ、連合軍、やっちまったなぁ」
俺はニヤリと笑みを浮かべる。連合軍名将6人がここにいる。ということは、西部戦線の連合軍は、誰が指揮しているんだ? この隙に、政府軍が西部戦線の連合軍を一気に攻撃したら、誰が戦線を維持するんだ?
この攻撃で、連合軍はホープ州を陥落させられるだろう。だが、その代わりに、アイツらはとてつもない代償を払う。
「1州を得て、5州を失う。西部戦線から、連合勢力は、完全に排除されるな」
その時、すぐ近くで爆音が鳴り響く。ホープ保安師団本部に攻め込まれたのだろう。そろそろ、俺も終わりだな。だが、後は彼女が引き継いでくれる。あの若き女性に、連合軍は消されるだろう!
[おお、ディンター! 貴様に会うのは、これで何度目だ!?]
漆黒の色をした鋼の機械――七将軍バトル=オーディンが、扉をけ破って最高司令室に入ってくる。その身体には、大量の返り血が付着していた。ひでぇ鉄クズだ。その内、パトラーがスクラップにするだろう。
「さぁ、お前のようなザコ、忘れたな」
[今日こそは、お前の首を引っこ抜いてくれよう!]
そう怒鳴るようにして叫ぶと、冷鉄な機械の親玉は、剣を引き抜く。俺も、同じように剣を引き抜く。あの部下の為に時間稼ぎをしてやらないと、な。
俺は自分からバトル=オーディンに斬りかかる。ヤツも応戦する。何度も空気が斬り裂かれ、剣同士が触れ合い、火花が散る。
この間に、バトル=オーディンの部下――バトル=パラディンたちが俺たちを取り囲んでいく。バトル=パラディンは騎士タイプの戦闘機械兵だ。鋼の鎧を纏い、藍色のマントを羽織っている。頭には2本一対の角まである。
「ほほう、またお前の部下が現れたぞ?」
[別に俺はお前と一騎打ちをしているワケではない]
そう言うと、バトル=オーディンは素早く後ろに飛んで下がる。その途端、槍を持った周りにいた6体のバトル=パラディンたちが俺に飛びかかってくる。
俺は今まで以上の力を振り絞り、バトル=パラディンと激しく打ち合う。バトル=オーディン1体よりも厄介だな。その時、連絡を命じた部下が再び戻ってくる。
「将軍っ、任務は果たしました!」
「そうか! よくやった!」
バトル=パラディンの1体を、頭から胸にかけて斬り倒す。更に、もう1体の頭を横に斬り裂く。だが、その時、電撃を纏った槍が俺の脇腹に突き刺さる。俺は激しい痛みと痺れを身体に感じ、倒れ込む。剣が目の前に転がる。
[残念だな。俺は、もうお前と会えなくなる。ハハッ!]
「そ、そうかな?」
[なにっ?]
「お前も、やがてはパトラーによってバラバラにされる。あの世でまた会えるぞ!」
[ハハッ、あんな小娘に誰がやられるか!]
おいおい、この機械の親玉、かつてパトラーに重傷を負わされたって聞くぞ。記憶を勝手に改ざんすんなや。
「連合政府はこの戦争に負ける。この侵略は、ホープ州民にとって悲劇だった。だが、本当の悲劇はこれからだ。最大の悲劇を受けるのは、連合政府、お前たちだ――」
俺はそれだけ言うと、機械の反論が飛んでくる前に、転がった剣を拾い上げ、それで自らの首を貫く。後は、頼んだぞ、パトラー=オイジュス――




