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黒い夢と白い夢Ⅳ ――動乱の世界――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第6章 不幸の真実 ――財閥連合・フロスト支部――
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第19話 フロスト支部の秘密

 【フロスト支部 建物内】


 フロスト支部はさほど大きな建物じゃない。小規模支部なだけに、通路も少なく、複雑に分岐していない。調査もすぐにすぐ終わりそうだ。

 銀色をした鋼の壁や床。天井の蛍光灯は白色(17年前のものクセに未だに普通に明かりがつく事にビックリ)。


「ここが最高司令室かな?」

「たぶんな」


 施設の最深部と思われるエリア。クラスタが右腕に装備した小型コンピューターを使い、ロックシステムをあっという間に解除する。

 扉の上で光っていた赤色のランプが、緑色に変わり、鋼の扉は左右に開く。私たちが中へと入ると、明かりがつく。最高司令室は円形状の部屋で、周りに操作用のコンピューターが並んでいた。奥に、大きなコンピューターがある。部屋の中央には、立体映像投影台と思われる機械もあった。

 クラスタがメインコンピューターに近づき、操作を始める。コンピューターはまだ壊れていなかったらしく、普通に動く。


 しばらくすると、中央の立体映像投影台に青色の立体映像が現れる。そこに映るのは、まだ若い男性。……財閥連合総督のコマンドだ。


[アスキー、フロスト=ドラゴンの捕獲に成功したか? 重要顧客のバトル・ラインが早急にフロスト=ドラゴンを欲しがっておる]

[いえ、フロスト=ドラゴンは強く、中々捕獲することは出来ません]


 続いて現れたのは、スーツを着た男性。彼も財閥連合の幹部だろう。……でも、アスキーなんていう人、財閥連合にいただろうか?

 バトル・ラインは今、連合政府を支持している大型組織の1つだ。アポカリプス大陸という南方大陸北部を支配する国家。17年前からすでに存在していたのか?


[特に政府特殊軍ホープ=オイジュスは我らの尻尾を掴まんと必死で嗅ぎまわっておる。もう時間がないぞ]

「…………!!?」

[はい、総督。必ずや、フロスト=ドラゴンを捕えてみせます]


 私は、自分のお母さんの名前が出て来た事に衝撃を受ける。一瞬、心臓が飛び出るかと思った。まさか、お母さんも財閥連合と対立していたなんて……

 それにしても、あのフロスト=ドラゴンを捕まえようだなんて、そんな無謀な……


「次の映像もある。この映像の3日後だ」


 クラスタがそう言い、コンピューターを操作する。立体映像投影台に別の映像が映し出される。


[タック艦長、そちらにホープ=オイジュス率いる小型戦闘機の小隊が向かった]


 さっきのアスキーの姿が映し出される。彼に続いて、また知らない顔をした財閥連合の幹部が映し出される。こちらは装甲服を着ている。財閥連合の軍人だろうか?


[分かっておる。彼女らがこのコア・シップを、小型戦闘機で破壊出来るのか楽しみだ]


 コア・シップ……! 私たちがプランナーさんの息子を助けた時に乗ったあの大型飛空艇だ。17年前からすでに存在したのか。

 映像が切り替わる。今度はコア・シップ最高司令室の映像。最高司令席に座ったのが、タックとかいうコア・シップの艦長だろう。


[お、オイ、待てお前たち!]

[いやああああっ!]

[タック艦長、本艦は――!]


 逃げていく女性パイロット。慌てて何かを報告しようとする男性パイロット。怒鳴るタック。彼らを巻き込み、最高司令室は一瞬で爆音と共に消えてなくなる。映像も途絶える。何らかの理由でコア・シップは破壊されたらしい。

 たぶん、お母さんたちはフロスト=ドラゴンを狙う財閥連合と戦い、旗艦であったコア・シップを破壊したのだろう。


「次で最後の映像だ。さっきのコア・シップ破壊から1ヶ月後の映像だな」


 クラスタはそう言い、コンピューターを操作する。だけど、その手が不意に止まる。


「……これだけ、外部から保存された映像だな。しかも、政府の人間がやったようなデータ形式だ。データ作成者は、警備軍・政府首都グリードシティ精鋭師団……」

「財閥連合、じゃない……?」


 クラスタは疑問を浮かべつつも、再びその手を動かす。中央の立体映像投影台に、再び映像が映し出される。国際政府が保存した記録。それが映し出される。今度は鮮明なカラー映像だった。

 映し出された場所はどこかの街だった。夜なのか、街に明かりが灯っている。雨が降っているらしく、街は濡れ、雨の音がしていた。

 狭い街路。そこに白色の軍服を着た1人の女性が歩いてくる。私と同じ黄色い髪の毛に、蒼色の瞳をした女性。……私のお母さんだ。


[ホープ将軍、なぜですか?]


 お母さんの後ろから、1人の少年も歩いてくる。栗色の長髪をした少年。


[んー、コマンドを怨む気持ちは分かるよ。でも、だからって、彼を殺すことはやっぱりね……]


 お母さんはそう言いながら歩く。後ろにいた少年の瞳には、どこか憎悪のような感情が籠っている様だった。


[私はみんなを救いたい。だから、軍人になったんだ。シリオードも、コスームも、アポカリプスも]

[でも!]

[コマンドを殺したって、それで世界は救われない。罪はコマンドだけじゃない。罪は経済を支配する財閥連合、全体にある]

[じゃぁ、フロスト=ドラゴンを捕獲する為に奴隷にされたシリオードの人々の気持ちはどうなるんですか!? 彼らだってコマンドの死を望んでいるハズじゃないですか!]

[怨みを晴らすだけじゃ、また同じようなことが起きる。腐敗した財閥連合・国際政府。すぐにまた同じようなことをする人が現れる。それじゃ、コマンドを殺した意味がなくなる]


 ……お母さんが言っている事は合っていると思う。財閥連合のトップが消えただけじゃ、また新たなトップが現れるだけだ。腐敗した組織から新たなトップが……

 でも、少年の言うことも分からないでもない。感情というのは、理性じゃどうにもならないときがある。特に、あれぐらいの少年ならば、尚更なのかも知れない。


[……ワケ分かんないですよ。コマンドは、敵じゃないですか。僕らシリオード人を、奴隷にしてきた悪魔――]


 少年が憎悪の籠った瞳を、彼に背を向けて歩くお母さんに向ける。……まさか――


[……お前も、コマンドを庇うのか……]

「…………!」


 少年は素早い動きでお母さんに近づく。その手にはナイフが握られていた。お母さんが振り向く。そのお腹に、少年はナイフを突き刺す。それと同時に、私は手で視界を覆い、悲鳴を上げた――

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